独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 しかし今の結子はそんな心境にはなれない。約束を土壇場で反故にする申し訳なさは感じていたが、こんな顔とこんな感情で奏一と向かい合って食事をする方が、奏一にも食事を作ってくれたお店の人にもよほど申し訳ないと思えた。

 だから奏一には一人で外食を――そう言いかけた結子だったが、最後まで口にする前に奏一の腕が伸びてきてぐっと身体を抱き寄せられた。

「え……な、に?」
「ご飯なんて後でいいよ。結子が泣いてる方が心配」
「……」
「どうしたの? 何かあった?」

 まだコートを着たままだった結子の身体を、目の前に座り込んだ奏一が優しくあやしてくれる。

 そう。結子は帰宅してから今まで、ずっとリビングの同じ場所に座り込んでぐずぐずと泣きじゃくっていた。いい歳をしたいい大人がなんと情けない……と思うが、どんどん溢れてくる涙を自分ではどうしても止めることが出来なかった。

「ごめん……俺、結子に無理させてたかな」
「ううん、ちがうの……」

 奏一は何か誤解をしたらしい。結子が泣いている原因が自分の振る舞いだと思ったらしく、困惑を通り越して後悔したような悲しげな顔をする。だから結子は慌てて涙を引っ込めて、懸命にふるふると首を振った。

「……仕事で、大失敗しちゃって」

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