「結子、今日はありがとう」
「どういたしまして」

 奏一が用意してくれたココアを受け取ると、二人で一緒にソファに座る。マグカップから立ち上る湯気に温かさと甘さを感じながら、結子はほう、とため息をついた。

「でもそっかぁ……セクハラが原因でフローリストの派遣を断られるとはねぇ」

 イリヤホテル東京エメラルドガーデンのブライダルサロン責任者、上野は、ブライダル部門と取引のある外部委託業者の若い女性に、見境なく手を出していた。

 それこそフラワーショップだけではなく、ドレスショップや、引き出物を扱うギフトショップ、果てはパーティの司会や介添え人を派遣するイベントプランニング会社に至るまで、本当にありとあらゆる取引先に迷惑を掛けていたらしい。

「それなら誰も掴まらないはずよね。大安とは言え平日なんだから、普通ならどこもそんなに忙しくないのに……」

 年末が近づいているタイミングなので普段より忙しい業者もあるだろうが、そうは言ってもブライダル業界の繁忙日はやはり土日や祝日、そしてその前日だ。

 なのに取引関係のあるフラワーショップの人が誰も掴まらないということは、やはりそれなりの事情があったのだ。

 誰だって嫌に決まっている。他のスタッフの目を盗んで身体を触られたり、ビジネスとは無関係のプライベートの誘いを受けたり、仕事で顔を合わせる度にいらやしい目で見られれば、不快に感じるのは当然だ。