独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 だから失念していた。言葉にしなくても伝わっていると思っていた。そう決めつけてちゃんと言葉にしていないのは結子の失敗でもあると言える。

 奏一は気付いていないらしい。ならば結子も、ちゃんと自分の言葉で伝えなければいけない。

「私、もうとっくの前に奏一さんが好きだよ」
「……え」
「優しいところも、甘やかすのが上手なところも、ちょっと意地悪なところも、子供っぽいところも、ちゃんと好きだから」
「結子……」

 それが結子の正直な気持ち。
 伝え損ねていた結子の想い。

 困ったような顔を見て思う。奏一はそうやって、情けない顔も、泣きそうな顔も見せてくれれば良いのだ。

 もちろん結子は超人ではないのだから、世界中の全ての人々を幸せにすることは出来ない。そこまでの力なんて持っていない、ただのちっぽけなお花屋さんだ。

 けれど奏一の悩みや愚痴を聞くことは出来る。悲しさや悔しさを分かち合うことは出来る。泣きたいときは胸を貸してあげられるし、疲れたときは膝を貸してあげられる。奏一が結子にそうしてくれるように、労わって、支えて、甘えさせてあげられる。

 二人は夫婦、なのだから。

「はい」
「え……?」
「なあに? 指輪、くれないの?」

 奏一の前に左手を差し出すと、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。その驚いた表情すら端正に整っているのが小憎らしいと思うけれど、それと同じぐらいに愛おしいと感じてしまう。

< 95 / 108 >

この作品をシェア

pagetop