「こんな美人な座敷童いる?」
「いや、わたし別に美人じゃないけど……」
「じゃあ可愛い座敷童」
「座敷童ベースなのね……まぁ、自分で言ったからいいんだけど」

 ちょっとした冗談をここまで掘り下げられると思っていなかったのでつい苦笑してしまうが、奏一はその言葉に少し和んだようだった。それから結子の頬を撫でる手を止めて、ここ最近の自分の行いを振り返るように頷く。

「まだ正確な情報じゃないけどね。今期の業績、はじめて兄さんのところに負けたんだ」

 奏一がぽつりと呟いた言葉に『へえ』と頷きそうになる。だが返事をする直前で動きが止まる。なんだかすごく聞き捨てならないことを言われたような気がして、目をまん丸にしてしまう。

「え……はじめて?」
「うん」

 イリヤホテルグループを経営する入谷家の御曹司、弟の奏一と兄の響一が揃って総支配人の役職に就いたのは今から三年前だ。

 当時まだ二十七歳だった二人は、ホテルの経営戦略やマネジメントどころかホテルマンや社会人としての経験も未熟だった。総支配人という一つのホテルを取り仕切る役割が務まるとは到底思えなかった。あまりにも若すぎる二人の就任には、株主総会でも否定的な意見が上がったと聞く。

 だがイリヤホテルグループを総括する彼らの父・入谷 晃一は『経験不足を理由に実績を残せないのなら、それは年齢ではなく本人たちの資質の問題。不足しているならそれを補うように振る舞え。出来ないのなら降ろすまで』と反対派の主張を一蹴した。