恋のチャンスは3日間
明日は会社。

郡司さんとこうしていられるのも、もうわずか。

その日はあっという間に過ぎていって、一緒に夕飯を食べ終え、20時30分を過ぎた頃

「俺、そろそろ帰るよ」

一番聞きたくない言葉が、耳に届く。

「はい」

「服いれる袋ある?」

「あ、はい」

・・・置いてってくれないんだ。

まあ、そうだよね。

なにか着替えを置いていってくれたら、また来てくれる可能性もあったけど、全部持ってっちゃうのか・・・。

急に寂しさが私を襲う。

幸せだった分、ただの後輩に戻らなくちゃいけない現実が、目の前に突きつけられたような気がした。

告白・・・しようかな。
気持ち、伝えるだけ・・・。


「じゃ、いくよ」

郡司さんの声にはっとして、

「あ、はい」

と返事しかできなかった。

だって、泣きそうだ。

玄関で靴を履く後ろ姿を見ながら、伝えたい。でも怖い。

靴を履き終えると、私の方をみて微笑んだ。

「3日間世話になった。ありがとう」

「こ、こちらこそ、楽しかったです」

私の頭に手を置いて

「また、明日。会社でな」

会社でも、あんまり会えない。

「・・・はい」

寂しい。寂しい。

「鍵、ちゃんと閉めろよ?」

どうしよう。

「・・・はい」

私の頭から手を離すと、郡司さんはドアを開けて出ていった。

バタン。

ドアが閉まると同時に涙が溢れ出す。

「・・うっ。うう。」

ポタポタと床に落ちる涙。

楽しかった。
幸せだった。
ドキドキして。
嬉しくて。

そして、寂しかった。

今も寂しい。

『気持ちを伝えるだけだ』
たけちゃん。
『一歩踏み出さなきゃなにも変わらないだろ』
うん。
『頑張れ』
うん!

伝えよう。
郡司さんに、好きって伝えたい。
返事はわかってる。
でも、伝えるだけ、伝えたい。


私はサンダルを履くとドアを開けた。
2階の手すりから下を除く。

・・・いない。
郡司さんがいない。

ここのアパートは道路に面してるから、駅の方向に向かって歩いている人影が見えるはず。

そんなに時間はたっていないはずなのに・・・どこ?郡司さん。

「郡司さん・・・好きなの・・・ずっと・・・好きだったの・・・」

手すりを握りしめて、泣きながら言った言葉は夜の少し冷えた空気に消えていく。

・・・追いかけよう。
まだ間に合うかもしれない。

郡司さんを追いかけようとしたとき

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