恋のチャンスは3日間
明日は会社。

その日は特に何をしたわけでもないが、考え事ばかりしていたせいか、あっという間に時間が過ぎて、一緒に夕飯を食べ終え、20時30分を過ぎた頃

「俺、そろそろ帰るよ」

言いたくない言葉を口にする。

「はい」

少しトーンが落ちた声が耳に届く。
森下も寂しいと思ってくれているのだろうか。

「服いれる袋ある?」

一緒に選んだ服。
持って帰りたくないけど・・・置いておいてって言うもの変だよな。
森下が「おいてってください」って言うのをちょっと期待したけど

「あ、はい」

と袋を差し出した。

・・だよな。
言うわけねーわな。
なんとも思われてないんだしな。

夢みたいに幸せだった分、急に現実に引き戻された気がして、寂しくなる。

・・・準備も終わったし、このまま立ってても仕方ないしな。

「じゃ、いくよ」

そう伝えると玄関に向かう。
森下は俺の後ろをゆっくりとついてきたようだった。

玄関で靴を履く。
帰りたくない。
・・・このまま別れて後悔しないか?
ずっと自問自答している。

靴を履き終えると、森下をみる。

「3日間世話になった。ありがとう」

森下の頭の上に手をのせる。
このくらいはしてもいいよな?

「こ、こちらこそ、楽しかったです」

あー、可愛いな。

「また、明日。会社でな」

とは言うものの、あんまり会えないんだよな。

「・・・はい」

なにか言うこと・・・。

「鍵、ちゃんと閉めろよ?」

そうじゃないだろ。

「・・・はい」

森下の頭から手を離すと、俺はドアを開けて外に出た。

バタン。

2、3歩歩いたところで、止まる。
壁にもたれ掛かり

「ふう」

とため息ひとつ。

やっぱ、このまま帰りたくねえ。

空を見上げると、澄んだ空気の先に月が見えた。もうすぐ満月か。少し欠けた月をみて、今の俺の心みたいだと苦笑する。

目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をする。
気持ち伝えよう。
心が初めて「欲しい」と叫んだ女だ。

意を決して目を開けると

アパートのドアが急に開いて、森下が飛び出してきた。
そして、すぐに手すりから下を覗く。

声を掛けようと思った瞬間。

「郡司さん・・・好きなの・・・ずっと・・・好きだったの・・・」

振り絞った声が耳に入った。

え?今、何て言った?
好きって言わなかった?

走り出そうとした森下の腕を掴む。

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