捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
王子様と共に

 レオンに連れられ、ルーカスさん、フェアリーとピクシーとともに隣国のモンターニャ王国に来てから、早いもので三ヶ月が経過した。

 今では、私の名付けた名前の『レオン』から、モンターニャ王国の第二王子・クリストファー・パストゥール殿下の愛称である『クリス』と呼ぶようになっている。

 四方を山々に囲まれた土地柄のせいか、精霊の森にいた頃よりも朝夕の寒暖差こそあれど、空気は澄んでいて綺麗だし、とてものどかで心穏やかに過ごせている。

 何より、皆気さくでフレンドリーだし情に厚い。

 それはおそらく、常日頃から国民の声に耳を傾け、王城に設けられている庭園や農園で自ら花や野菜を育んでいる国王夫婦のお人柄がそうさせているのだろう。

 国民の暮らしぶりを知るには、まずは体験しなくてはならない。貧しい者には富んだ者が手を差しのべ、助け合わなければならない。

 人を尊い、人を差別してはならない。

 ……というのが、国王陛下の座右の銘であり、口癖であるらしい。

 なので、国王夫婦というのはどんな方々だろうと、戦々恐々だった私の心配は杞憂に終わった。

 突然、異世界に召喚されて追放されてしまった私の身の上をとても憂いてくださり、また、クリスとのことを話せば、それはそれは大歓迎してくださり、とてもよくしてくださっている。

 なかでも驚いたのが、クリスが家族以外に心を閉ざしていた理由だ。

 それは幼少期、人前で初めて狼獣人の姿になった時のこと。

 傍にいた小さな子供が驚いて泣き出し、ひきつけを起こしたのをクリスが見て大きなショックを受けて以来、心を閉ざし、人を寄せ付けなくなったことで溝ができ、やがて周囲から忌み畏れられているとクリスが思い込んでいったようだ。

 大人になるにつれ、クリスの逞しい体躯や眉目秀麗を体現するかのような美貌に周囲は魅了されていったらしいが。

 クリス自身が人を寄せ付けないために、いつしか『孤高の狼王子』と呼ばれるようになり、周囲との溝はますます深まっていったという。

 それが、私と一緒に帰国してからは、人が変わったように表情が明るくなり、雰囲気も柔らかくなり、騎士団の指揮官として統率をとるのにも円滑になったのだそうだ。

 私は別に何もしていないというのに、国王夫婦をはじめ周囲からとても感謝されている。

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