ひと口に離婚といってもいろいろなケースがある。

 長年連れ添った夫婦が、定年や子どもの自立を機に別々の人生へと踏み出す熟年離婚。新婚旅行中のささいなトラブルがきっかけで破局に至る、成田離婚。

 最近では、配偶者に内緒で投資を行ったり、隠し口座や秘密の資産が見つかり信用を失った果ての、投資離婚なんていうものもあるらしい。

 私たち夫婦の離婚には、どんな名前がふさわしいだろう。

 麻布十番の高級マンションの一室。離婚届を記入する手を止めた私は、宙に視線を投げる。

 しばらく考えた後、頭に浮かんだ四文字をそのまま口に出した。

「貧乳離婚……」

 なんて物悲しい四字熟語。だけど、私たち夫婦の関係を表すのには、これ以上ない言葉だ。

 くだらない思考を巡らせつつ、離婚届の一番下、届出人の欄に【柳澤佳乃(やなぎさわよしの)】の署名と押印を済ませる。壁の時計を見上げると、時刻は午後八時半。夫の真紘(まひろ)さんももうすぐ帰ってくるだろう。

 彼の勤務先は、ひと晩中明かりが消えることのない不夜城、霞が関。深夜残業もざらだが、真紘さんは可能な限り早く帰ってきて、一緒に食事を取ろうとしてくれる。