《前に、アイツの浮気を疑った時に作ってもらったでしょう? オレンジ色のカクテル》
「あ、はい。……でもそういえば、はぐらかされたままです」

 あの時、雨音さんとの話に夢中で、カクテルが薄まってしまったことに拗ねた真紘さんが、意地悪で教えてくれなかったのだ。

《熱烈な恋》

 司波さんが、どこか冷やかすような口調で告げる。胸にのしかかっていた不安がほんの少しましにったけれど、会いたい気持ちがますます募ってしまう。

 真紘さん……。

《どうか、無事を信じて待ちましょう。それと、ギリシャは治安が悪い方ではないですが、女性のひとり歩きは危険です。暗くなる前にホテルを探した方がいい》

 司波さんに言われて腕時計を見ると、もうすぐ午後三時。今夜は本当なら真紘さんが借りている部屋に泊まるつもりだったので、ホテルの手配なんてしていない。急がないと日が暮れてしまう。

「わかりました。色々とありがとうございます」
《では、また何かあれば連絡します》

 司波さんのお陰で、気持ちは少し落ち着きを取り戻していた。深呼吸をして、立ち上がる。

 アテネ中心部では英語が通じるそうなので、私ひとりでもなんとかなるだろう。