離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
相思相愛夫婦

 翌朝、心地よい気だるさに包まれてうっかり寝坊しそうになっていた私を起こしたのは、真紘さんの甘い声だった。

「起きて佳乃。今日はまだ金曜日だよ」

 ハッとして起きると、ベッドの脇に立つ真紘さんはすでに完璧なスーツ姿。昨夜はしっとり濡れてセクシーに乱れていた緩いパーマヘアも、出勤用にかっちりセットされている。

 あぁ、今朝もカッコいい……じゃなくて!

「仕事!」

 叫ぶと同時に布団を剥いで跳ね起きた。

 私の勤務先は、大手自動車メーカーの天馬(てんま)モーターズ。港区芝の本社のオフィスで受付業務を担当しており、公務員の真紘さんと同じく、平日五日勤務している。

 昨夜の余韻に浸る間もなく慌てて洗顔やメイクを済ませ、最後に髪を簡単なお団子にすると、リビングダイニングに移動した。

 対面キッチンでは真紘さんがちょうどコーヒーをふたりぶん用意してくれていたけれど、時間がないので立ったまま胃に流し込む。

 キッチンの脇には真紘さんお気に入りのバーカウンターがあり、いくつかお酒のボトルが並んでいる。そこで実際にバーテンダーとなってカクテルを作るのが真紘さんの趣味であり特技。

 今日は金曜日だし、彼の帰りが早ければになにか作ってもらおうかな。

 一日の終わりにそんな楽しみが待っていると思うと、出勤前の憂鬱もやわらいだ。

< 25 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop