「私、自分の胸がこんな貧相なので、雨音さんのこと単純に羨ましいって思ってました。胸が大きいと人生楽しいだろうなとか、一日でいいから体を交換してみたいなとか、ホント浅はかなことばかり考えてたんです……。だから、すみません!」

 ぺこっとお辞儀をすると、頭上からクスクスと雨音さんの笑い声が聞こえた。

「言わなければわからないのに、正直ね。こういうところがかわいいの? 真紘さん」
「ですね。あと、俺の力作のカクテルの存在忘れて、完全に薄まっちゃってるところとか」

 真紘さんが苦笑しながら指さしたのは、結露してびしょびしょになった私のグラス。中の氷が溶けて、カクテル上部に透明の層までできてしまっている。

「ご、ごめんなさい! ちゃんと飲みますから!」

 慌てて口をつけると、見た目通り多少薄まってはいたけれど、美味しいカクテルだった。オレンジの爽やかな果実感にこっくりとした甘みが加わっていて飲みやすい。

「で、このカクテルの名前と意味は?」

 そう尋ねたのは雨音さんで、興味津々に真紘さんを見る。しかし、彼はカウンターに頬杖をついてじとっとした視線を送った後、ツンとそっぽを向いた。

「一番美味しい時に飲んでくれなかったから、教えてあげない」
「えっ、なんでそんな意地悪……!」

 思わず大きな声を出し眉を下げた私に、真紘さんはしたり顔で告げる。

「佳乃のそういう顔が見たいからに決まってるだろ」

 ムッと頬を膨らませると、真紘さんがますます楽しそうな表情になる。

 私たちの言い合いに挟まれた雨音さんは呆れたように笑いながらも、シャンディガフのグラスを傾け、「美味しい」と呟いていた。