離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
離さないと言ったのに

 大型連休を控えた、四月最終週の平日。私と雨音さんは、揃って受付カウンターに立っていた。

 来月から完全に受付が無人になり、その仕事をAIロボットのテンマくんが担うという情報はすでに社内外に通達済み。それでも最後の一日はふたりで受付に立ち、訪問客に改めて挨拶するとともに新体制の案内をするよう、常務に指示された。

 私たちにとってもその方が気持ちの区切りをつけやすいので、その日はいつも以上に綺麗な笑顔での接客を心掛けた。

 夕方、来社予定のお客様の案内がすべて終わり、事務作業を残すだけになると、私はパソコンで作業しながら雨音さんにそっと話しかけた。

「雨音さん、こないだバーでお話を聞いて以来、ずっと考えていることがあるんですけど」
「ん? なぁに?」

 バーでの一件以来、私たちの仲はさらに深いものになった。真逆のコンプレックスを抱える者同士、なんとなく通じ合うものがあるのだ。

「私たち、来月には正式に秘書になるわけですけど……専務のもとで働くの、本当に大丈夫ですか? 確か、セクハラ発言連発なんですよね、専務って」

 普通の女性でも耐え難いのに、雨音さんには過去に受けた心の傷もある。

 専務付きの秘書になるのは、絶対につらいはずだ。

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