魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
九章
 その日の晴れた昼下がり。窓から射し込む陽光が静かに光のかたまりを作る。積み上げられた書類、王都の地図、警備隊の記録本。ヴィオルドが何度も見てきた、見慣れた光景だ。

 しかし心が軽くなったからだろうか、ミーナからの言葉を聞いて以来、いつもより鮮やかに見える。

 彼女が放った赦免の言葉はヴィオルドが一人で背負ってきた罪を洗い流した。そして彼女はずっと彼の側にいてくれると、そう言ったのだ。

 彼はミーナの言葉を思い出す度に、顔を赤らめて片手で隠そうとする。

 この先、彼女以上に大切と思える女性は現れないだろう。彼の、一番の特別なのだ。しかし、自分なんかがずっと側にいて良いのだろうか。やはりそんな考えがヴィオルドの頭をよぎる。大切だからこそ未だに断ち切れない迷いがある。

 彼が頬を林檎のように赤く染めて悩んでいると、硬いノックの音が上官室に響いた。

「どうぞ」
「ヴィオルド、今からミーナの店に行きませんか?」

 フィルが遠慮無く部屋に立ち入り、静かに声をかけた。

 一瞬の静寂が訪れる。

 ようやく我に返ったヴィオルドは、焦りを悟られないように鋭い声音で言葉を返した。ミーナに会うにはもう少し心の準備をする時間が必要だ。

「お前、またサボる気か?」
「違いますよー。上官が巡回に行くならお供しますよって意味です」

 悪びれずに開き直るフィルを横目に、ヴィオルドは軽くため息をつく。どこまで悟られているのかわからないのがこれまた恐い。

「あ、もしかしてミーナに何か言われたんですかい?」

 フィルの一言で再び場が凍り付いた。ヴィオルドは慌てて引きつった笑みを貼り付ける。

「何言って――」
「ミーナは強い女の子ですよ。引きずってでもヴィオルドを明るい場所へ連れ出す、そんな人じゃないですか。そしてミーナがじゃなくて、ヴィオルド自身はどうしたいんですか?」
「そうだ……そうだな」

 重要なことに改めて気づかされた顔をしながら、ヴィオルドは納得を口にする。彼の過去に正面から向き合う強さがあるからこそ、彼は救われたのだ。本当の彼を受け止める強さがあるからこそ、ヴィオルドは彼女を大切に想っていたのだ。

 ――だからこそ、ずっと一緒にいたい。

 身支度も心の準備も整ったあと、彼は決意を固めた表情でドアノブに手をかけた。

「行こう」
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