雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
 私が回想している間にも、進藤からメッセージが続く。

『なんで? 経済学のところ教えてやるからさ』
『やだ』

(一方的に教えてもらうなんて嫌だ。だいたい、それじゃあ、進藤にメリットがないじゃない!)

 私の心の声を読んだのか、進藤が畳みかけてくる。

『人に解説することで知識が定着して、俺も勉強になるんだよ』
『やだ』
 
 そっけなく返事しても、進藤はしつこい。
 この粘り強さが交渉力に繋がるのかな?
 よっぽど不動産鑑定士の勉強会がしたいらしい。
 周りにあまりやっている人がいないからかな?

『それなら、これでどうだ?』

 そんな言葉の後、どど〜んと大きなズワイガニの写真が送られてきた。

(カニ!?)

 思わず、息を呑んだ。目が吸い寄せられる。

『ふるさと納税で届いたんだ。カニ鍋しようぜ』

(勉強会はどこに行ったの?)

 そう思うものの、ゴクリと唾を呑み込む。

< 42 / 95 >

この作品をシェア

pagetop