極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 茉奈を迎えに行くと、朝の格好とは違い着替えていた。先生によれば茉奈はプールが好きらしく、水の冷たさに最初は戸惑うもののいつもすぐに慣れ、後は水に浸かって大はしゃぎらしい。

 全力で楽しんだらしく保育園でも昼寝をしたが、早めに寝るかもしれないとの話だった。

「茉奈、プール楽しかった?」

「たぁー」

 ご機嫌の茉奈に靴を履かせ、先生から荷物を受け取る。最近は階段も手を繫いだらしっかり上り下りするようになった。

 いつもの帰り道なのに、妙に緊張して手に力が入る。途中で飽きて抱っこをせがむ茉奈を抱き上げた。そうこうしているうちにアパートが見えてくる。

「あー」

 三階の端に位置する私たちの部屋を茉奈が手を伸ばしてあそこだと伝えてくる。こうやってたくさんのことを覚えていっているんだな。

「うん。でも今日はこっちね」

 苦笑して駐車場のほうに足を進める。心臓の音がうるさい。衛士は、茉奈は、お互いにどんな反応をするんだろう。

 まだ空は明るくて、高いのは気温なのか体温なのか判断がつかない。

 衛士の車を視界に捉えるや否や、彼が車の運転席から降りてきた。

 びくりと肩を震わせ、私の足が止まる。対する衛士は、大股で足早にこちらにやって来た。その顔はなんとなく険しくて、心臓がドクドクと強く打ち出す。

「ん、まー?」

 茉奈は向かってくる衛士を不思議そうに指差し、こちらに訴えかけてくる。ほどよい距離で彼と向き合う形になり、私から口火を切った。

「娘の茉奈よ。茉莉花の茉に奈良の奈で茉奈。もうすぐ一歳八ヶ月になるの」

 たどたどしく説明したら、衛士はわずかに表情を緩め、茉奈の視線に合うよう腰を屈めた。
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