別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
父が私のランドセルを手に持っているのは、背中の傷がまだ痛んで背負えなかったからだ。

幼稚園の年中の冬に事故に遭ったと聞いている。

それから精神的なダメージもあり一カ月ほど入院したが、退院してからは幼稚園にも通わずずっと家にいた。

アルバムを閉じて次の作業に入ると、とある絵本を見つけた。


「こぐまさんのはちみつケーキは、ふわっふわであっつあつ」


事故の前の記憶は飛んでいるはずなのに、この絵本だけは覚えている。

きっと繰り返し読んだのだろう。
ボロボロになっても、大切な思い出が詰まっている気がして捨てられずにいたのだ。


「思い出さないほうがいいのかな……」


事故の痛みや苦しみは、二度と経験したくない。

けれども、その前にあった楽しい出来事まですべてなかったことになっているのはとても残念だ。

でも……。
陸人さんと新しい人生を歩むのだから、くよくよしていても仕方がない。


私は懐かしいその絵本を閉じて、段ボール箱に詰めた。
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