離婚しましたが、新しい恋が始まりました
苦い思い出

 日曜の朝早く、紬希は実家に戻った。有沢家は戦前に建てられたレンガ造りの洋館だが、まだ十分に美しい屋敷だ。紬希は鈍く光る鉄の門の脇にある木のくぐり戸を抜け、芝生の広がる庭を横目に勝手口に回る。8時前だから、逸子たちはまだ寝ているだろうが、家政婦の磯田はキッチンで働いているだろう。

「ただいま」
「お嬢様。お帰りなさいませ」

 白髪交じりの髪をきちんとまとめ、濃紺の着物に割烹着姿の磯田が笑顔で迎えてくれた。

「磯田さん、早くからご苦労様です。何からお手伝いしましょうか?」

「まあ……お帰りになってすぐに申し訳ありません」
「いつもの事よ。食器の準備?応接に花を活ける?」

紬希も自分の荷物からエプロンを出した。

「ケータリングの業者が9時に参りますから、お嬢様にはお部屋の方をお願いいたします」
「白い花は届いてる?」
「はい。旦那様がお好きだった百合をご準備しました」
「ありがとう」


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