きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように

miracle

　透真、と書かれたネームプレートの付いた扉をノックする。

　「透真くん、今大丈夫？」

　「うん、入って」

　突然の訪問に拒否することなく透真くんは入出の許可を出してくれた。

　私もその言葉に甘えて、失礼します、と改まって言って部屋に入った。

　人生で初めて入った異性の部屋に緊張し、目のやり場に困っていると、適当に座って、と言われて小さな机の横に座った。

　「あのさ、この間はごめん。突き放すように言ったこと、後悔してる」

　まずは謝罪から始めたくて座ってすぐにそう言った。

　「いや、俺こそごめん」

　「透真くんが謝ることじゃないよ」

　「俺が先に言っておくべきだった」

　その言葉が妙に引っかかる。

　それを頭の中で反芻していると、また口を開いた。

　「実は俺も夢見病なんだ」
　

　噓だ……。

　それを聞いた瞬間、私は何と答えていいのか分からず思わず黙り込んでしまった。

　透真くんがせっかく勇気を出して言ってくれたにもかかわらず、私はいつもの彼のような応答が出来なかった。

　透真くんが夢見病ならなおさら私は失礼な発言をしてしまった。
　
　私はこの事実を信じたくなくて、現実逃避をするかのように彼から目を逸らして自分の世界に入った。


　今思えば私が夢見病だと知ったとき、大抵の人間は私から遠ざかっていくのに対して、あの日以来、透真くんと過ごす時間は増えていった。

　きっとそれも透真くん自身が夢見病だったが故の行動だと思うと胸にくるものがある。

　夢見病を患って以来孤独だった二人を神様が出会わせてくれた。

　きっと、これも何かの運命なのだと改めて思った。

　そう思うと同時に、この運命を無駄にしてはならない気がして、もっと透真くんと同じ時を過ごしたいとも思った。

　「ねぇ、いつか予定ある？」

　夢見病だとカミングアウトされた後に何も言わなかったから、透真くんはより一層不安な表情をした。

　私も、言ってしまった後、ハッとして、どうすればいいのか不安になる。

　「蒼来は俺のこと避けないのか？」
　
　想像していた反応に合う返事が見つからない。

　自分の失態に気付くまでは、てっきり透真くんも話に乗ってくれるとばかり思っていたから、改まったように目を丸くして見られると返事に困る。


　「避けるわけがないよ、むしろこれからも仲良くしてほしい」
　
　私がそう返すと透真くんは安心しきったのか大きく息を吐き、私を見て微笑んだ。

　私に透真くんを避ける理由などなかった。

　寧ろ、同じ病だからこそ妙な安心感があるとさえ思った。

　「２週間後に花火しないか？」

　その話を切り出したのは透真くんだった。

　毎年開催される花火大会は入院していたために見ることが出来なかった。

　だからこそ、花火という言葉に釣られるように食いついて、うん、と言った。

　やっと夏らしいことが出来る。

　そして、きっと次が人生最後になるであろう花火に胸を躍らせた。

　
　それから数日後、透真くんは入院した。