君と僕との相対性理論
愛のない救い


その連絡が来たのは、学校からの帰り道だった。

2月14日?
なぜその日?と思ったけど、それは世間で言うバレンタインデーの日で。
歩くのをやめ立ち止まり、スケジュール帳を見れば、その日は日曜日で何の予定も無く。


だけど朝からって?と、それも随分と先…。そう思って返答に困っていると、スマホの画面には『着信中』と言葉が出て。
雪さんから電話がかかってきたと思えば、スマホを落としそうになった。
けれどもスマホは落ちることはなく、戸惑いながら私はスマホを耳に当てた。


『…あ、もしもし、西条です』


その声は、優しいやっぱり雪さんの声だった。だけども電話だからか少し違うように感じた。


「は、は、い…」

『ごめんね、今電話大丈夫?』


学校の帰り道だから…。
今日は運転手付きの車ではなく、徒歩だから。


「大丈夫です…」


盗聴器は、雪さんと会う予定はなく、家にあるからここにはなくて。


『さっきのメッセージ見た?』

「はい…2月の…」


というよりも、〝既読〟がついてしまっているはずだから。見たのはきっとバレている。


『うん、そう。またいつでもいいんだけど、いいか悪いか返事くれたら嬉しくて』

「えっと…」

『その日…なんていうか、友達の結婚式でね?高校の友達なんだけど。僕に婚約者がいるって知って、良かったらその子もって…』


結婚式?
雪さんの高校の?
私も?


え?と、一瞬言葉が出なく。
分かるのは、私が雪さんの婚約者として、結婚式に招待されているということで。


「そ、そんな…私が、私がいくなんて…」


失礼ではないだろうか?
だって、私は、その雪さんのご友人の方は知らない…。


『うん、ほんとに無理なら無理でいいんだ。一応、僕もそいつに言ったんだけど…、来い来いうるさくて。って言っても、新郎じゃなくてゲストがうるさいんだけど…』


新郎じゃなくてゲスト?


「ま、ましろさんは…」

『ん?』

「ましろさんは、…私が行くことで迷惑など…」


私の言葉に、軽く笑った雪さんは『和夏に対して迷惑なんて、一生ないよ』と、呟く。


心が温かい。


「……1度、父に聞いてみないと、今すぐお返事はできません…」

『うん、分かった』

「すみません…」

『ううん、謝ることじゃないよ』

「あ、あの、お借りしてたジャケット…」


私がそう言った時だった。スマホから『ユキー、どうだった?』と陽気な声が聞こえたのは。
その声は雪さんの落ち着いた声ではなく。


〝ユキ?〟


『今電話中』

『いいって?』

『まだだって、電話中って言ってるだろ』


呆れたような、雪さんの声が聞こえる。



『来いって言えよ』

『なんで(そう)が決めんの──』

『俺が1番楽しみだもん、当たり前じゃん。人数多い方がいいし。変わってよ、俺が来いって言うから』

『絶対やめろ、この子はそういうのじゃないから』

『はあ?』

『いつも口悪ぃのに、〝僕〟だしな。猫被りなのか雪ちゃん』


ましろちゃん?


ふと、誰の言葉も聞こえなくなり、だけどすぐに『──ごめん、うるさかったね』と、いつもの雪さんの声が聞こえた。


「い、いえ…」

『今みたいな感じて、ほんとうるさくて』


今みたいな感じ…。

ゆき
ましろちゃん…。

雪さんの友達…。


「ましろさんは…どうですか」

『え?』

「その…」


雪さんが言うのなら…。


『僕が来いって言ったら、和夏無理にでも行かなきゃって思うでしょ?』

「ましろさん…」

『でも、来て欲しい、かな。みんなに紹介したい気持ちもあるし』

「…」

『来い、じゃないよ。来て欲しいだからね?』

「…雪さん…」

『明日、学校帰りに会えないかな?迎えに行くから』




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