それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「な!? 良いこと、言ったよな!?」

「はい!?」

「俺、めっちゃ先生っぽかったよなあ!?」

俺すげー、と自画自賛する人を目の前に、思わず私はぽかんと口を開けた。

やっぱりこの人……、バカだ。

よかった。危うくこんなバカに、お礼を言ってしまうところだった。

「……気持ち悪い」

「はあ?」

「いちいち私の行動見ていて、気持ち悪い! 変態!」

「うわ、なんだお前、せっかくここ連れてきてやったのに!」

「連れてきてやったって、勝手に連れてきたんでしょ」

私は席を立つ。

「もう帰る」

「あ、お、おい!」

ドアに向かう私の左手首を、先生はガシッと掴んだ。

「明日からもよろしく」

「なにを?」

「俺の用事引き受け係! よろしく!」

「……嫌だよ」

「ほら、とりあえず、桜が咲いている間だけで良いから。引き受けてくれたら、ここ、いつでも連れてきてやる」

……。

「先生がいないと入れない部屋だぞ」

どうだ、とまるで私に勝負を挑むような目つきで、先生は尋ねた。

……。

ああ、もう、めんどくさいな。

「わかったよ」

どれだけ長くても、ゴールデンウィークまでの我慢だ。

一か月ぐらい、耐えてやる。

「ありがとう! お前、やっぱ良い奴だな」

「……うざいから、手、離して」

「ほい」

先生は離す前にポケットから何かを取り出して、私の手に握らせた。

「……なにこれ」

「チョコレート」

あれ?嫌いだった?と先生が首をかしげる。

「私、一応、生徒なんだけど」

「わかってるけど?」

「お菓子の持ち込み、禁止されている立場なんだけど」

「おう、じゃあ、見つからないように食え」

「なにそれ」

本当にこの人、先生なんだろうか。

先生らしくない。
先生らしくないけれど。

もらったばかりのチョコレートを口に入れる。

「じゃあ、これ、あげる」

私は包み紙を先生に渡すと、面談室を飛び出た。

「おい! お前、これゴミだろ!」

背後で先生の嘆き声が聞こえ、思わずクスッと笑ってしまう。


口の中で溶けたチョコレートは、よく知った味のはずなのに、なんだかいつもより甘くておいしかった。

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