それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「だって、たかちゃんが言っていたんでしょ? 当てにならないじゃん」

「どうして?」

「たかちゃんにとっては大城(おおしろ)だってイケメンなんだよ? 期待できないじゃん」

こんな場面で名前を出すのは失礼過ぎると思いつつも、たかちゃんにとっては“イケメン”に分類される、クラスメイトの名前を私は告げる。

「うぅ……たしかに……」

そうなのだ。たかちゃんにとって“イケメン”の幅は、私たちよりもずっと広いのだ。
決して私や美羽から見れば“イケメン”ではないクラスメイト達もーもはやなぜ“イケメン”に分類されるのかもわからないクラスメイト達もー彼女にとっては“イケメン”なのだ。

「でしょ? あんまり期待できないって」

「いや、そうなんだけど……うーん……」

そうだよなあ、けどやっぱり期待したいなあ、と美羽が唸る。


キーンコーンカーンコーンー…。

朝礼の始まりを知らせるチャイムが鳴り響くと同時に、ざわついていた教室中が静かになる。

「けどさ」

ひそひそ声で、美羽が続ける。

「副担任が、鈴木先生じゃなくなっただけでも、ラッキーじゃない?」

「それは……否定できないね」

鈴木先生は生徒指導を担当している先生ということだけあって、成績はもちろんのこと、身だしなみについてとにかくかなり厳しかった。

それこそ、スカートの丈が、校則で定められているよりも2、3センチ短いだけでも気づいて、わざわざ職員室に呼び出すぐらい。

「うん、やっぱり、副担任が鈴木先生じゃなくなっただけで、素晴らしいよ」

うんうん、と美羽がうなずいていると、教室のガラガラと音を立てながらゆっくりと開いた。

「はい、おはようございます」

中野先生は、普段通り挨拶をしながら入室して教卓に立つと、進級したお祝いの言葉や、この後行われる始業式についての連絡事項を話し始めた。


「ねえ、まだかなあ、副担任の紹介」

中野先生の“有難い”お話しが始まって数分。

先生に気づかれないように、美羽は横を向いて私に問いかけた。

「さあ……」

ろくに話を聞いていなかった私は中野先生を一瞥すると、身振り手振りでなにかを訴えかけている先生の姿が視界に入った。

……これ、絶対に長くなりそう。この人、話し始めたらとまらないからなあ。

思わず眉間にしわを寄せそうになりながら、私は美羽に返事をする。

「この流れだと、全部話し終えてから紹介するんじゃない?」

「そうだよねえ……普段はまだ耐えてあげるけど、こういう時は本当に中野の話の長さにはうんざりしちゃう」

美羽は、どうしてそんなに楽しみなんだろう。

正直、担任や副担任の先生が誰であってもそんなに変わらないのにな。

親友でもわからないことはたくさんあるなあと思いつつ、私は頬杖をついて、窓の外に咲き誇る桜を見つめた。

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