それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「ありがとう、いただきます」

「どうぞ」

目の前のお味噌汁に手を伸ばすと、今日は珍しく、あさりが入っていた。
――あさりが入っているお味噌汁、お姉ちゃんが好きだからだろうな。

「沙帆、今日、帰って来るの遅かったね?」

貝からあさりの身を引きはがしていると、目の前に座っているお姉ちゃんが私に問いかけた。

「あー、うん」

「何してたの?」

部活やっていないでしょ?という質問に、私は頷く。

帰りが遅くなる日があったって、別に良いじゃん。
お姉ちゃんみたいに、学校が終わればすぐに家に帰って勉強するような人ばっかりじゃないんだよ。

一瞬こんな答えが頭に浮かんだけれど、私はすぐに打ち消す。
これは私がお姉ちゃんの質問を、勝手にひねくれた解釈にしちゃっているだけだって、わかっているから。


「友達に勉強教えてた」

「へえ、偉いじゃん」

「もうすぐ中間試験だからね」

お茶を運んできてくれたお母さんが、横から口を挟んできた。

「そっか、そんな時期かあ」

お姉ちゃんは懐かしそうに、つぶやく。

「勉強、進んでいるの?」

お母さんが探るように尋ねる。

もう、本当に嫌なんだよな、この質問。
言われなくても、ちゃんとやってるってば。

「うん」

言い返したいけれど、言い返すことすら面倒で、私は適当に返事をする。

「英語以外も勉強してる?」

「してるってば」

いつも他の教科よりも英語の成績がとても良いからか、お母さんは、私が英語の勉強しかしていないと思っているらしい。

そんなわけ、ないのに。

「数学は? また前見たいな点数、取らないでよ?」

「わかってる」

「そんなに数学苦戦しているの?」

お姉ちゃんの問いかけに、私ではなくお母さんが大きくうなずく。

「いつも、本当に数学がダメなのよねー…」

「ダメって……」

そんな言い方しなくてもいいじゃん。

私だって、苦手なりに頑張っているんだから。

きっとお母さんには、伝わっていないんだろうけど。

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