それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「話せば長くなるぞ」

先生はフッと笑うと、「それでもいい?」と尋ねた。

「うん、もちろん。そもそも私が聞いたんだし」

むしろ、話してくれることが嬉しい。

先生は私の答えを聞くと、「子どものこと、住んでいた家の隣の家に、3歳年下の子がいたんだ」と話し始めた。

「その子は、幼稚園に入るタイミングで引っ越してきたんだけど、家が隣同士だったから、俺が小学生の時はよく一緒に遊んでいたんだ。俺も、一人っ子だったから、とっても可愛がっていたんだ。むこうも、すごく懐いてくれていた。それこそしょっちゅうお泊りに呼んでもらえるぐらい」

先生はその子の追憶に耽るように、かすかに笑みを浮かべながら、静かに目を閉じ、大きく深呼吸をした。

「ただ、俺も中学生に入ると、部活が忙しくてさ」

「え、先生って部活していたんだ」

初めて聞くお話に、思わず私はツッコんだ。

「あれ? 俺、最初の自己紹介の時に話したけど?」

「あ……、う、うん、確かに聞いた気がする。忘れちゃったけど」

「お前、聞いてなかっただろ」

バレバレだ、と先生が苦笑する。

「俺、ラグビー部だったんだよ。まあそれはどうでもいいんだけど」

先生は話を戻した。


「中学に入学してからは、ほとんど会っていなかったんだよ」

急に先生の声色が変わり、私は恐る恐る先生の表情を伺う。

すると先生は……戸惑ってしまうほどーこんなに人の辛そうな表情を見るのは初めてだと断言できるほどー苦しそうな表情をしていた。

こういう時、どうすれば良いのだろう。

なにか声をかけたいのに、気の利いた一言でも言うことが出来れば良いのに、何を言えば良いのか分からず、私はただ黙って、先生の次の言葉を待つ。


「高校2年生の時だったかな」

先生はしばしの間、外の海を眺めた後、続けた。

「母親から、その子が、学校に行けていないことを聞いた」

ふーっと先生は大きく息を吐きだした。


「……どうして?」
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