それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。

いつもより甘いチョコレート

「ねえ」

昼休み。職員室を訪れた私は、ツカツカと畑中先生に歩み寄る。
怒気を含んだ低い声で後ろから声をかけると、畑中先生は「おお、来たか!」と笑った。

「来たか、じゃないでしょ。いい加減にしてよ」

「そんな怖い顔するなよ~、お前の睨み顔怖すぎ」

ピアノを弾いているところを見られてから1週間。

畑中先生は、職員室へ私を呼びだしては、なにかと用事を押し付けた。


「もうクラスメイト全員の名前と顔も覚えたでしょ。本当にいい加減にしてよ」

「だからそんなに怒んなって」

「普段、普通に会話しているのに、どうして呼び出されるのは私だけなのよ」

先生は怒りで満ちている私を気にすることなく、もぐもぐと食べていたおにぎりをお茶で流し込んだ。

「今日もよろしく」

畑中先生は、自分の机の上に置いてあるノートの束を、ポンッと叩いた。

「これ。ノートチェック終わったから、みんなに返しておいて」

「嫌なんだけど」

「そんなこと言わずにさ、頼むよ~」

せっかく職員室まで来たんだしさ、お願い、と頼む先生に、「本当に嫌なんだけど」ときっぱり断る。

「そもそも、前も言ったけれど、こういうのって、日直の仕事なの。私じゃなくて、日直に頼んでよ」

「……人の役に立つと、自分にも良いこと返って来るかもよ?」

「そういう話、してるんじゃないんだけど」

ヘラヘラ笑っている先生を、思いっ切り睨みつける。

「本当にいい加減にー…」

「ちょっと、君」

後ろを通りかかった、別の学年の先生が私の隣に立つ。

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