夜桜

池田屋

それから私は、屯所と島原を行き来する日が続いた。

本当に毎日来る古高には驚いたが、その度に新選組にとっての有力な情報を残していく。

毎日の様に古高の酒に睡眠薬を盛り、眠らせる。 古高が眠っている間に私は山崎さんと屯所へ戻り、土方さんに報告をする。

それを終えた後、夜が明ける前にもう一度島原に戻り、あたかも古高と一夜を共にしたような振る舞いを繰り広げ、古高を見送る。

一夜を共にした自覚がない古高は、初めのうちは疑っていたが、日が経つうちに、「いい夜だった。」と言葉を残して島原を出る。



「男は皆馬鹿なのよ。」

君菊さんは煙管を片手に持ち、二階の部屋から外を伺った。君菊さんの言う通り、奴らの馬鹿さには期待できる。

「任務の方はどうどすの?」

「へえ、順調に進んでおりますえ。うちらにとって、有力な情報をしゃあしゃあと流してくれます。」

「ほんで、ある程度吐いちまったら、もう用済み。 まあ何と、哀れな男だろうね。」

「心を許した女が、まさか敵だったなんて、ね。」

「あんたはんも、悪う人どすなあ。」

「新選組の女どすから。」

「流石、土方様のお小姓さんやわあ。」

「うちにとって、最高の誉め言葉です。」

私たちは笑い合った。今夜また来る、そういった古高を見るのは、今朝で最後だっただろう。

次に奴に会うのは、屯所内での拷問部屋のはずだ。

昨夜古高が私に残した情報はこう。

風の強い日を選び、京の都に火を放つ。そして、中川宮と会津松平容保を討つ。

その詳細を決める会談を、近いうちに行うらしい。

「案ずるな、島原と葵には、被害がないようにする。 俺は、その日死ぬかもしれない。だが、俺がお前のことを思う気持ちは、永久に不滅だ。」

心配しなくても、 京の都が火に包まれることは無い。 古高が死ぬのは新選組の屯所だ。

いつ風が強い日になるか分からないため、私はその情報をいち早く新選組に伝えるべく、先程報告に行ったところだった。

「報告ご苦労。ならば今夜、古高を捕縛し、拷問を受けさせる。 そこで、会談の日時と場所を聞き出す。 お前は、一度島原に戻り、君菊と親方に話を通した後、ここに戻って来い。その間に、俺たちが古高を捕縛する。今日の古高の予定は、分かったりするか?」

「今日は升屋に行くと言っていました。」

「相変わらず完璧だな。」

「いえ、捕縛するなら今日だと思ったので、予定を聞き出しておきました。」

土方さんとの会話を思い出し、私は君菊さんの方を向いた。

「仕事どすか?」

私がそれを言うよりも先に、君菊さんが言った。

「お察しがええどすなあ、姉さん。話が早いですわ。」

「親方にはもうお話は通しておきましたえ。 ご武運を。」

「ほんまどすか?助かります。おおきに、姉さん。」

君菊さんの機転の利いた働きに、私は予定よりも早く屯所に帰れそうだ。
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