勢いのまま飛び出した私は、ただひたすら歩いていた。

泣くつもりはないのに勝手に視界が滲むのを、唇を噛みしめて耐える。

厚手のショールを羽織っているとはいえ、真冬の寒さは身に応える。


「……ごめんね、赤ちゃん」


お腹を冷やしてはいけないと、ぎゅっとショールを掻き合わせる。

私ひとりならまだしも、赤ちゃんを危険にさらすわけにはいかない。

とはいえ、こんな心境で戻れそうにない。

せっかく来てくださった義兄にずいぶん失礼な真似をしてしまった。

もう完全に妻として失格だ。

きっと今頃ふたりは呆れているだろう。

ひとりになって気持ちを落ち着けたくて、さらには夫への恋心を捨てる決意を固めたくて、スマートフォンの電源も落とした。

帰らなければとわかっているのに、どうしても自宅から足が遠のく。

せめてどこか建物の中に入ろう、そう思って周囲を見回したとき名前を呼ばれた。


「――倉戸さん?」


私を旧姓で呼ぶ、少し高い声には聞き覚えがあった。

ギクリと体が強張る。

声のほうへ恐る恐る視線を向けると、すぐそばの車道に停められている車に寄りかかるように飯野さんが立っていた。