『人の厚意は素直に受け入れろ』


どこか呆れた口調ながらも、きちんと部屋の前まで送ってくれた。


『でも、今日は色々お世話になって……迷惑もたくさんかけましたし……』


髪が絡まった事故から、どれだけ濃い時間をこの人と過ごしたのか。

しかもなんだかんだで甘えてばかりだ。


『謝りすぎだ』


整った容貌を少しゆがめて、響谷さんが私の額を人差し指でトンと軽くつついた。


『“ありがとう”だけでいい。ああ、そうだ。プロポーズの返事を忘れるなよ?』


『……ですから、お断りしましたよね?』


『あいにく拒否は受けつけない主義なんだ』


口元に緩い弧を描いた彼が、即座に返答する。

こんな状況でなければ絶対に見惚れていただろう。


『あとで必ず連絡しろよ』


タクシーの中で強引に連絡先交換をさせられた記憶がよみがえる。


副社長ともあろう人がこんなに軽々しく女性と連絡交換なんてしていいのか、と嫌味を込めて伝えたら『沙也だからな』と鮮やかに言い返され言葉を失った。

きっと数多くの女性たちにも同じように振る舞ったのだろう。

そう考えると、なぜか胸の奥がざわめいた。


『……あなたは私にはもったいない方です』


『決めるのは俺だ』


婉曲的な断りをもろともせず、グッと私の腰を引き寄せて額にキスを落とす。


『響谷副社長……っ』


『じゃあな、おやすみ』


動揺しっぱなしの私とは対照的な落ち着いた態度が恨めしい。