甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
相手は有名人なうえ、勤務先が新たな取引を始めようと躍起になっている今、変な噂でも立てられたら困る。

もっと強く拒絶しなければ、と思うのにうまく頭が機能しない。

今日一日の内容が濃すぎて感情の整理すらおぼつかない。

のろのろと自宅のカギを開け、施錠した途端、力が抜け、その場にぺたんと腰を下ろす。

片付けもそこそこに重い体を無理やり動かして着替え、入浴し、すぐに眠ってしまった。


翌朝十時過ぎに目が覚めた途端、様々な後悔や羞恥が襲ってきて、たまらず塔子に電話した。

親友からは再三連絡が来ていたが、返事をしていなかった。

休日の朝にも関わらず、応答してくれた親友に昨日からの出来事を洗いざらい話した。

連絡が途絶えた件については小言をもらったが、匠眞との一件を心配してくれた。


『堂島ったら小賢しいわね。そんな手口で沙也が戻ると本気で思ってるのかしら』


『どういう意味?』


よくわからない親友の言葉に首を傾げる。


『沙也が気づいていないならいいのよ――へえ、響谷副社長がね……それで、調べたの?』


『え、なにを?』


『世間の評判や女性遍歴、もしくは会社ホームページとかで表立って公表されていない出来事諸々をよ。ちょっと検索すればすぐにヒットしたでしょ?』


さらりととんでもない発言をする。


『してないわよ。そもそも断るし』


『玉の輿よ? すごく豪華なウエディングドレスを着れるじゃない』


幼い頃からの夢なんでしょ、と親友が興奮した声で付け加える。
< 35 / 190 >

この作品をシェア

pagetop