甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
3.初めての独占欲 side郁
秘書の関の電話に応答した隙に駆け出した沙也の背中を、視線で追いかける。

彼女が向かった先は道も広く、人通りも多いし、変な輩に絡まれはしないだろう。

心配だが、過保護にすると嫌がるだろう。

そんな思考を抱いた自分に驚く。

捕まえたと思った途端、腕からすり抜けていく沙也に苦笑する。

出会ってからの短い時間に何度逃げられただろう。

まさか自分が誰かを追いかける立場になるとは思いもしなかった。

連絡するように伝えた相手に無視されるのも初めての経験だ。


『副社長、どうかされましたか?』


仕事に忠実な秘書の声がスマートフォンから聞こえる。


「大事な人に逃げられただけだ」


『……笑い事ではないと思いますが、なにがあったんです?』


呆れた声で有能な秘書が尋ねてくる。


「俺の決意をもう一度伝えて、ついでに彼女の欠点を指摘した」


『嫌われるとしか思えない振る舞いですね』


ため息交じりの遠慮ない返答に口角が上がる。


「まあな、自覚してる」


『そのわりには楽しそうですね』


「逃がす気がないからな」


断言すると関は小さく息を吐く。


『ご健闘をお祈りしますが、いい加減社にお戻りください』


「わかっている」


迎えに来るという関に場所を告げようとすれば、すでに向かっていると言われた。

どうやらSNSで、俺が女性と親密そうに会話していたなどとつぶやかれているらしい。

沙也を識別されないかを確認するよう告げて通話を終えた。
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