「倉戸、なにがどうなってあんな有名人に求婚されたんだ?」


「佐多、私の説明をちゃんと聞いていた?」


軽く横目で睨みながら、親友が呆れたように話す。

親友は佐多くんに、結婚相手を必要としている響谷副社長が、傷心の私にプロポーズをしたと詳細を省いた説明をしたらしい。


「聞いたうえで確認してるんだ。俺は響谷の社員数名と面識があるが、副社長が結婚相手を探していたなんて皆知らないはずだぞ。そもそも誰にも本気にならないって男女含め全員が苦笑してたくらいだからな」


「これまで社内に恋人はいなかったの?」


塔子が長いまつ毛を瞬かせながら、驚いたように尋ねる。


「響谷副社長に近い社員ほど、性格というか恋愛へのスタンスを熟知している様子だったからな。あえて叶う見込みのない茨の道を選ばないそうだ。社員に軽々しく手を出したりもしないらしい」


「コンプラやセクハラとかに引っかかるもんね」


「……多分、成り行きとお互いの利益のためだから……」


おずおずと頭の中で彼との出会いを反芻しつつ、意見する。


「響谷副社長は人生に関わる判断をそれだけでは下さないだろ」


「どういう意味?」


親友が首を傾げる。


「響谷副社長は案外真剣だと思う。散々遊びつくしてきた男の本気を甘く見るなよ? 倉戸、多分もう逃げられないぞ」


「普段からモテる佐多が言うと信憑性があるわね……ところで、そろそろ事業計画の内容に話を戻すわよ。佐多、その計画書を沙也に渡して」


親友が場を取り仕切る。

佐多くんから数枚の紙を受け取り、ざっと目を通す。