「傘、忘れた」

 玄関の外で空を見上げた。土砂降りの雨。傘立てを見れば、そこには大量の傘が差さっていた。この中の1本くらい……いや、私の良心が痛む。迷った挙句、私はこの土砂降りの中を走って帰ることにした。学校から歩いて駅まで10分、電車で20分、降りたらそこから歩いて10分。走ればどうってことない距離だろう。

 スクールバッグを傘代わりに、息を切らせて走っていく。しばらく走っていると、ほとんど人通りのない道を青いチェックの傘を差した人がひとりで歩いているのが前方に見えた。あの制服のズボンのチェック柄はうちの高校のだ。

 用意のいいやつだな、と思いながらその人の横を走り過ぎようとしたときだった。

「神崎さん?」

 立ち止まって振り返ってみると、私の名前を呼ぶ声の主は進藤くんだった。思わず心臓が跳ね上がる。

「この雨の中を傘も差さずに帰るだなんて、無謀なことをしますね。傘も差さずに帰っては、風邪を引いてしまいます。入ってください」

進藤くんは私に歩み寄ってきた。

「いやいやいやいやいいです結構です。私駅までだし」

「それは奇遇ですね。僕も駅まで行きます」

 進藤くんの傘が私の頭に降り注ぐ雨を遮った。