ゆるふわな君の好きなひと

「由利くん、音楽にあんまり興味ないの?」

 歌に無関心でポテトを食べている由利くんに訊ねると、彼が「そんなことないよ」と、口をモゴモゴさせた。

 だったら、どうしていつも全然歌わないんだろう。もしかして、聞かせられないくらい音痴なのかな。

 綺麗な顔からは、あんまり想像できないけど。

 横顔を覗き込むようにじっと見ていると、由利くんが「何?」と不審気に首を傾げる。


「うぅん、別に」

 さすがに歌下手なのって直接聞くのは失礼な気がして、首を横に振る。


「あんましさ、人の前でマイク持ってまで歌いたいって思わないんだよね」

 由利くんが摘んだポテトをポイッと口に入れると、少し考えるように視線を上に向けてボソッと言った。

 カラオケの音量と眞部くんの歌の声量が大きくて、会話が少し聞こえづらい。


「カラオケはガヤガヤしててうるさいし、別にそんな好きじゃない。でも晴太たちと一緒にいるのは好きだから、来てる」

 前屈みになって由利くんに耳を寄せると、彼がそんなふうに話すのが聞こえてきた。

 そっか。眞部くんや璃美と一緒にいるのが好きだから……。

 眞部くんの歌になんか全く無関心で、ちっとも聴いていないくせに。

「晴太たちと一緒にいるのは好きだ」とはっきり言い切れちゃうぐらい眞部くんや璃美のことは好きで、特別なんだな。そう思ったら、由利くんとふたりの関係が少し羨ましく思えた。

< 41 / 192 >

この作品をシェア

pagetop