「……まさか、魔術師ギルドの職員がわざわざこの場に来てくださるとは。後から問題になるかもしれませんが、今は時間がない。一緒に来ていただけますか? ただ……この中で見たことは、口外されるわけにいかないのです。誓約魔法を使わせていただいても?」
「――――仕方ありません。だって、この魔法薬が必要なんて、毒で苦しんでいる方がいらっしゃるのでしょう?」
「聡明なお方ですね……。では」

 壮年の騎士が、ふわりと淡雪のような魔法をエレナの唇にかける。

「これで、この敷地から出るまで見たり聞いたりした出来事については、一部の人間を相手にした場合を除いて、話すことができなくなります」

 まるで、当たり前のようにエスコートの手を差し出しながら、騎士は「ゴルドン・フィアンツと申します。エレナ嬢、今回の件、騎士団を代表して感謝いたします」と口にした。

(えぇっ、副騎士団長、炎楼のゴルドン・フィアンツ卿?! ものすごい大物が出てきた!?)

 それでも、時は一刻を争うらしい。エスコートのため差し出された手に、エレナが手を差し出した瞬間、足早にゴルドンが歩き出す。

 リドニック卿が飛び越えた場所は、騎士団の詰所の裏口に当たるようだった。
 そのまま、厳重に侵入者防止の魔法がかけられた扉を、いともたやすく開いて、中に入ったゴルドンの後ろをちょこちょこと忙しなく足を動かしながら、エレナはついていく。

 裏口のせいか、誰とも出会わず、妙に静かな館内。
 王立騎士団の、中央詰所は大所帯だ。

(どうして、誰とも会わないの)

 首をかしげながらも、通された室内。大きなテーブルに瓶を置いて、エレナは急いで計量を開始する。

「ガラス瓶、ありますよね?」
「ええ……。魔法薬の空瓶が」

 用意された空瓶に、薬を詰めれば、予想通り三十人分の解毒の魔法薬が出来上がった。

「ところで、何人分必要なのですか?」
「十八人分あれば、事足りるでしょう」
「そうですか。それでは、帰ります。報酬は、後日、魔術師ギルドにお支払いください」