「……銀色の理想のモフモフさん?」
「うん? そういえば、あの時もそんなことを言っていたな。俺が昨日一緒にいた騎士なのだと知っても、その反応か?」
「――――っふえ? あっ」

 服はきちんと着込んでいる。そのまま眠ってしまったせいで、シワになってしまったドレスに、罪悪感が浮かぶ。

 ただ、それ以上に、夜通しその毛並みに顔を摺り寄せていたような記憶が、かすかに残っている気がして、エレナはあっという間に真っ赤な秋のように色づいた。

「……エレナ」
「はっ、はいいいっ!」

 のそのそと、ベッドから這い出した銀色の犬改め銀狼は、部屋の中ほどまで歩んでエレナを振り返った。

 そのまま、どう見ても笑顔にしか見えない表情で、銀色の狼が言葉を繋ぐ。

「こんな風に、誰かの体温を感じて眠ったのは、生まれて初めてだが、案外いいものだな?」

(いっ、言い方ああぁ!)

 けれど、エレナはそこでふと、真っ赤になっていた頬に手を当てて思案する。
 今、確かに聞き捨てならない言葉を聞いた。

(誰かの体温を感じて眠ったのは、生まれて、初めて?)

 一般的には、生まれて初めてのわけがない。
 それなのに、どうしてレイは、エレナにそんな言い方をしたのだろうか。

「そんな顔をしないでくれ。自分でも、余計なことを言ってしまったと猛省している」
「余計なこと……なんて」

 狼の顔なのに、表情が曇ったことが分かってしまうほど、レイはうなだれていた。
 そんな姿が、たまらなく切なく、愛おしく思えてしまったエレナは、ベッドから降りてもう一度、銀の毛並みを抱きしめる。