バッグヤードに駆け込むと、ギルド長がやはり、苛立たしげに杖を握りしめていた。

「ギルド長! どうして、出撃命令が出ないのですか?!」
「……エレナ。呼び出しておいてすまないが、まだお前の休暇は継続だ」
「え……。どうして」
「魔術院から、お前に関する正式な書面が先ほど届いた。一週間業務に関わることを禁ずると」
「でも、今は緊急事態でっ!」

 ギルド長が、ギリッと奥歯を噛み締めた。
 ギルド長は、いつでも目深に被ってあるフードを外す。その途端に、この王国では稀有な、黒い髪と瞳が現れる。

 切長の漆黒の瞳で、エレナを真摯に見つめたギルド長は、高い背を屈めて小さな両肩を掴むと、子どもに言い聞かせるように、信じられないことを言った。

「王立騎士団に出撃命令が出たあとに、その書簡は届けられた。つまり、今回のことがあっても、謹慎は決定事項だ。……魔術師ギルド長ローグウェイは、職員エレナに命を下す。今より一週間、業務に関わることは禁ずる」

 そんなこと、あるだろうか。
 王国の危機に、一介の職員とはいえ、ギルド職員を関わらせないなど。

 エレナは、呆然と、そして徐々に燃えるような怒りを覚え、それでも「承りました」と、震える声でギルド長に返答した。

「……辛いだろうが、命令は絶対だ。……せめて、安全な場所にいてくれ」
「……ご配慮、感謝いたします」

 安全な場所に? そんな場所、今の王都にはない。

(不自然な出来事と、予言を受けた人間が、命の危機に陥る場面が、予言が真実になる瞬間なのだと、あの本には記されていた)

 そのことを知っている人間は、おそらくエレナしかいない。どこかに、秘匿された、別の資料があれば別だが。

 どこか軽薄な声色をした、予言師の言葉が蘇る。

『お相手、死んじゃうんで』

(死なせない)