次の瞬間、エレナは、捕われていた。
 両膝をついて、エレナの目の前に現れた、長く、たくましい腕の中に。

「いきなり、人間の姿に戻るなんて、ズルいです」
「何が……? 俺の姿は、こちらが本当だ。たぶん」

 恥ずかしさのあまり、なおも離れようと身じろぎをするエレナを、逃すまいとでもいうように、ますますレイの力が強まる。

「――――団長。国王陛下の謁見の席から、飛び出してきたんですか?」

 その、呆れたような声は、エレナとレイの足元から聞こえてくる。

「……きちんとお許しは得た」
「へぇ。どうやって」

 その瞬間、わかりやすく動きを止めたレイ。
 エレナは、どう考えても、不敬をしでかしたらしいレイの顔を、メガネの奥に隠された目を見開いて見つめた。

「どうして、そんなことしたんですか」
「……エレナ嬢が、危険な目にあっていると思ったから。それに……ちょうど良かったんだ」
「レイ様は、せっかく、姫君と婚約できるほど、国王陛下の覚えめでたいのに」
「――――っ、そんな提案、最初から断っている。俺が、結婚できるのは、狼の姿を見たって、笑って抱きしめてくれる、たった一人だけだ」

 レイは、今までの距離感をなくしてしまったみたいだった。
 ただ、不安定な姿勢のまま、エレナを強く抱きしめて離すことがない。

(それって……。そうだ、聞かなければ)

「団長。公爵家に戻ってますので」

 そろりと、開いたままのドアの隙間から、ジャンが姿を消す。
 律儀にも、ドアはきちんと閉められた。

 静かな室内には、お互いの体温と息遣いだけが残される。
 乾いた口の中を潤すみたいに、ゴクリとエレナの喉が音を鳴らす。