慶ちゃんが抱いてくれない!




俺もベンチに腰を掛けた。



「慶次君は……真穂と付き合い始めたんだったかな?」

「え!?い、いや!まだ!……そういう関係じゃない…です」

「ははっ…そうか。真穂が毎日慶ちゃんと結婚したら~って言ってるからね。二人共そういう歳だしさ」

「でも、俺も真穂の事ずっと好きなんでいずれ付き合いたいと思ってます…。18歳の誕生日が過ぎたら……」

「あぁ…そうだよなぁ。真穂も17だしなぁ」


真穂の父ちゃんはそう言って苦笑した。


「あの…こんな事おじさんに言っていいのかわからないけど…俺、真穂との事どうしたら良いかわからないんです……真穂には生きててもらいたいってずっと思ってました。でも、それって自分の好きな人が死ぬのが悲しいから。結局、俺が悲しいから……俺が長く真穂と一緒にいたいからで……。真穂に生きて欲しいのは全部自分の為なんじゃないかって……真穂は300年も生きる事を望んでないのに、ここに来てどうすればいいかわからなくなりました…」



「慶次君…真穂の事真剣に考えてくれてありがとう……。正直なところおじさんも真穂のお母さんともっと長く一緒にいたかった。そうなんだよ……。普通の人間でも不慮の事故や病気で突然生涯を終える事はあるけど……30はやっぱり早いし、かと言って300年は長い」



おじさんはそう言って目元をハンカチで擦った。



「極端過ぎますよね…」

「そう…でも、もし300年生きる事になったら将来おじさんが死ぬ時…きっと心配で死んでも死にきれなかったかも知れないな。何かあっても自分が守る事は出来ないし、守ってくれる人が側にいるとも限らないからさ」

「…」

「真穂の人生を30年で終わらせてしまう覚悟を決めるのは、ツラい事なのはよくわかるよ」

「おじさんは真穂のお母さんとは……」

「おじさんはね…考える暇もなかったんだ」



真穂の父ちゃんは苦笑した。




「え?」

「真穂のお母さんとは中学の時に部活のマネージャーとキャプテンとして知り合ってね。真穂のお母さんよりも学年が二つ上だったから中学の時は可愛い後輩としか思ってなかったんだけど、高校3年生の時に真穂のお母さんに告白をされて、付き合い始めたんだけれど…その時…真穂のお母さんが魔女だという事も魔女の存在も知らなくてね。何も知らずに寿命を縮めてしまったんだ」

「……」

「詳しくはわからないけど、魔力を持たなくなると魔女同士だとわかるんだろうね。すぐにお義母さんから呼び出されてさ。…真穂のお母さんは300年も生きたくなかっただけだから重荷になるから一緒にいてくれなくてもいいと言い出すし、大変だったよ」

「……真穂のお母さんも意思強かったんですね」

「本当その辺はそっくりに育ってしまった…まぁ…真穂の人生だから真穂の意思を尊重してやるのが一番なんだろうな……なんかごめんね、折角真穂の事で相談してくれてるのに全然答えになってなくて」

「いえっ……貴重な話聞かせてくれてありがとうございました」



ガラッ



「あー!お父さんと慶ちゃん、こんな所にいた!慶ちゃんのお母さんが買ってきてくれたケーキ食べよう?」

「あぁ…ごめんごめん!そうだな」



真穂が来て、俺と真穂の父ちゃんは部屋へと戻った。







…そうだよな。






300年生きるのは真穂であって、俺じゃないんだ。


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