唯くん、大丈夫?

嫌いな女の子。

「気をつけて行ってこいよー」


「はーい!」



お父さんと寝ぼけ眼の咲優に見送られて外に出る。


寒さに抗おうと、お気に入りのふわふわのマフラーに顔をうずめて小走りで駅に向かった。



土曜日で賑わう駅前通りを抜けて、重たい参考書がごっそり入ったトートバッグをなんとかなで肩に引っ掛けて電車に乗り込む。




乗車時間は一駅だけの5分間。

その隙間時間も勉強に充てる。

そして駅から徒歩3分の四角い建物。

ここが、私の通う予備校。




最初は緊張して入るのも怖かったこの教室も、今ではもう目をつぶって歩けるぐらいに馴染んだ。



いつも通り目があった友達とあいさつしながら、最後尾に座る金髪の男の子の横の席に向かう。




「みね君、おっはよー!」


「…」




…あれ?




「みーねー君」



みね君が見つめる先には、何もない。

机の木目だけだ。



「…みね君?おーい」

「!」


ようやく気付いたみね君が「…おー!」と私を見た。


「おはー」


そう言っていつもの人懐っこい笑顔をみせるみね君。


「…どした?」


「え?」


「みね君がぼーっとするなんて珍しい」


「…そりゃあ俺だってぼーっとしたい時ぐらいありますって!そんなことより模試、どうだった?」


んん…?

なんか誤魔化された気がする。

…気にしすぎかな。


「…ヘッヘー!聞いて驚くなかれ!明応大A判定だった!」


「本当に!?スゲーじゃん!!やったな!」


みね君が自分のことのように目を輝かせて喜んでくれる。
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