イノセント・ハンド
第10章. 復讐の結末
車では、風井竜馬が待っていた。

出てきた紗夜を見て、車を降りる。

『こっちです。紗夜さん。』

盲目の彼女に方向を教える。

『お待たせしてすいません。』

『いえいえ、美女を待つのはわくわくするものです。失礼するよ。』

助手席のドアを開け、紗夜の右手を取り、軽く腰に手を当て、シートに触れさせる。

『ありがとうございます。』

風井が運転席に乗り込む。

『今夜は雪になるかも知れませんね。さて、少し遠くだけど、静かでいいところがあるんだ。』

車は、真冬の街へ走り出した。


『紗夜さん。今日は本当にありがとう。君のその不思議な力のおかげで、父は助かりました。』

『いえ。私はただ・・・』

『人の・・・心が読めるんですよね。私のも分かりますか?』

紗夜がゆっくり首を横に振る。

『いつも、全てが読めるわけではありません。特別な感情や心の音みたいなものが聞こえる時があるんです。気持ち悪いでしょ?』

そうは言ったものの、紗夜は、風井の心が全く読めないことを不思議に思っていた。

『気持ち悪いだなんて。使い方さえ間違わなければ、素敵な能力だと思いますよ。』

そうは言ったものの、彼はすこしホッとした。

『君は、なぜ刑事になろうと思ったの?』

『別に・・・特に理由は。』

『お父さんの影響かな?』

(!)

紗夜の体が、ビクッと小さく弾く。

『父のことは・・・良く覚えていません。富士本さんが父の様なものですから。』

『そうだったね。嫌なことを聞いてごめんなさいね。』


その後彼は、紗夜に見えない街のイルミネーションや風景を、説明しながら走って行った。
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