落とし物から始まる、疑惑の恋愛
2
 ハルカは、必死に昨夜の記憶をたどった。飲んだ帰り、自宅の最寄り駅前のコンビニで買い物した時には、確実にあった。ということは、コンビニから自宅までの道中で、落としたのだろう。
 ――大変だ!
 現金は大して入っていないが、免許証やクレジットカードを悪用されたら一大事だ。ハルカは、あわててカード会社に連絡し、利用停止手続を取った。会社は半休を取ることにして、警察署を訪れる。
 幸運なことに、財布はすでに届けられていた。ハルカはほっとした。
「拾ってくれた方には、いくらかお支払いしないといけないんでしたっけ」
 うろ覚えの記憶で尋ねると、警官は事務的に答えた。
「報労金ね。私らは間に入らないから、この人と直接交渉してください」
 そう言って警官は、その人物の住所氏名を伝えた。君島健人(きみじまけんと)という男性で、ハルカの近所に住んでいるらしい。
 ――直接か。
 相手が男性ということで、ハルカはためらった。だが、やはりお礼はしたい。迷った末、ハルカは君島に感謝の手紙を書いた。連絡先としてメッセージアプリのIDだけを添えて、ハルカはそれを投函したのだった。
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