チョークの音が教室に響く。



英語の黒岩先生が文法の説明をしてから、ぐるりと教室を見回す。



「じゃあここの英訳をーー」



黒岩先生の視線が、わたしのところで止まる。


嫌な予感に、思わず肩がすくんだ。



「森川」


名前を呼ばれて、ああ、やっぱり、とうなだれた。


本当なら、顔ごと机に突っ伏したかったけれど。


「森川蒼乃ー、いないのかー?」


黒岩先生は、わざとらしく名前を強調して言う。


「……はい」


わたしは下を向いたまま立ち上がった。


つっかえつっかえで、全然言葉にならない。


予習はちゃんとしてきた。


意味だってちゃんと理解しているつもりだ。



でも、立ち上がった瞬間、そこに書いてある言葉が文章じゃなく、バラバラの暗号みたいに見えてくるのだ。


喉の奥から絞り出すように精一杯声を出しているのに、実際に口から漏れる声は、虫の息みたいにか細い声だった。


「聞こえないな。もっと大きな声で言ってくれないか?」


「すみません……」


そうつぶやくと、黒岩先生はふん、と馬鹿にしたように笑った。


「損だよなあ。そんな見た目で、まともに英語喋れないなんてな」


そんな見た目、という言葉が、わたしの胸を突き刺す。


どうしてそんな風に言われなきゃいけないんだろう。


ーーわたしだって、好きでこんな見た目に生まれたわけじゃない。


だけど、反論なんてできなかった。


見た目のことを言われて、いままで一度だって言い返せたことなんてないのだ。


できないことを急にできるようになるはずがないことは、よくわかっている。