ずっと探していた人は
流れ星
「あー、試合してーなあ」

12月に入って一週間。

朝教室に入ってきて早々、私の目の前の席にドスッと音を立てながら座ると、徹は大声で愚痴った。

「おはよ」

徹に続いて入ってきた大橋くんに声をかける。

「おはよう」

大橋くんは寒い時期だというのに、いつもより顔を真っ赤にして汗をかいていた。

「試合! したい! やる気でない!」

大声で叫ぶ徹に、中川くんがたしなめた。

「しょうがないだろ、対外試合禁止期間に入っちゃったんだから」

「なにそれ」

私の隣で雑誌を読んでいた由夢が顔を上げる。

「12月から2月までは、他の学校との試合が禁止されてるんだ」

「へえ、どうして?」

「寒い地方では、雪が積もったりして練習できないから。地域によって練習内容に差が出るのは不平等だろ」

中川くんが答えると、由夢は感心したように、「へー、意外と細かいところまでルールが決められているんだね」と言った。

「後は、ケガをしないようにかな」

寒いとどうしてもケガしやすくなってしまうから、と中川くんが付け加える。

「けど12月からだと、対外試合禁止期間になったばっかりじゃないの?」

前で愚痴っている徹に聞くと、徹は弱々しくうなずいた。

「まだ一週間なんだぜ、もう試合したくて我慢できない」

「野球好きすぎる病だね……」

呆れたように言うと、みんながどっと笑った。

「大橋くんもー……」

やっぱり試合したい?

そう聞こうとした私の声は、かき消された。


「大橋先輩っ!!」

対角線上にある教室のドアのほうから聞こえた声に目を向けると、そこには知らない女の子たち3人が立っていた。

きっと真ん中の女の子が声をかけたのだろう、胸の前で遠慮気味に手を振っている。
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