ずっと探していた人は
「徹、今日はありがとうね」

お互いの家が近くなり2人になったところで、私は切り出した。

「おお、いーぜ」

鼻歌を歌っていた徹が答える。

「けどさ、お前ちょっと彼氏に気を遣いすぎっていうか、我慢しすぎじゃねーか?」

最近、無理してるだろ?

徹は続けた。

「俺は加恋と昔から一緒にいるし、ずっと兄妹みたいな存在だから、正直お前の考えていることはなんでもわかるよ。けどお前の彼氏は、そんなことないだろ? きちんと気持ち伝えないと、わからないぞ」

「うん…………」

それだけ言うと、徹は、明日の朝も家まで迎えに行ってやんよ、と言った。

「ほんとに?」

「おお、勉強教えてくれているお礼に、お前の好きな菓子パン持って行ってやる!」

だから遅刻すんなよ、と徹は笑う。

「遅刻するのは徹でしょ」

「はー? 俺遅刻なんてしたことねーもん」

「嘘つき! 野球部の朝練が無いときは大体遅刻してるじゃん。今日だってギリギリだったくせに!」

「えー? お前の勘違いじゃね??」

とぼける徹の背中をパシッと叩くと、徹は「痛っ!」と笑った。

「また明日ね~!」

自分の家のほうへ歩き出した徹に叫ぶと、徹は、おう!と手を振る。

さっきまで真っ黒で重たかった心が、少し軽くなる。

自分を見てくれている人がいてくれるって、どれだけ心強いのだろう。

「ただいま!!」

私はいつも通りの元気のいい声で、家族に帰宅を告げた。
< 23 / 155 >

この作品をシェア

pagetop