ずっと探していた人は
「うん、きれい」

視線を大橋くんの方へ移すと、ずっと上を見ていたせいか首がとても痛い。

「花火大会なんてくるの、初めてだ」

横に座った大橋くんは、花火の迫力に驚いたのか、少し口を開けながら花火を見ていた。

「中川くんもさっき言ってた。野球していると、練習でなかなか来られなかった、って」

「野球をしている人はきっとみんな同じだね」

大橋くんが笑う。

「最近、どう? 野球、頑張ってる?」

かき氷の容器を見ると、さっきまであった氷がほとんど溶けている。

シロップと混ざりすっかり甘くなった水を、私はストローで吸い上げると、口の中に甘さが広がった。

「うん、頑張ってるよ」

大橋くんが視線を花火から外しながら答える。

「ベンチ入りできなかったとき、正直何が足りていないのわからなかった。けど、あの時期があったから、きちんと自分の実力を見直すことができた」

花火の音に負けそうなぐらい、静かに大橋くんは言った。

「もちろん投球練習もしているけど、今は、同じぐらい、身体も鍛えている。特に俺は、足が弱いって、監督にも言われたんだ。だから、一試合完投できるように、足を鍛えるトレーニング、しているんだよ」

「投手って、肩だけ強くても、ダメなんだね……」

野球をしていない私にとっては、投手なのに足を鍛えるトレーニングをすることが少し不思議だった。

きっとそのことが伝わったのだろう、投げる時は足で踏ん張ってボールに力を乗せるんだよ、と大橋くんは言った。

「今まであんまり好きじゃなかったランニングも、毎日練習の前後に絶対30分しているんだ。筋トレも欠かさずしている。今思えば、俺がしてきた努力って、すごく少なかった。投げるのは好きだけど、投げるための土台作りをしっかりしてこなかったなって」

できる努力って無限にあるんだね、と大橋くんが笑う。

その笑顔は、数か月前に、ポジション争いに負けて凹んでいた人と同一人物だとは思えないほど、眩しいものだった。

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