「いらっしゃい」

ある日の休日、なな子の家に体育教師でいとこの巡哉と、巡哉の恋人となった国語教師の可菜実がやってきた。

「どうも、はじめまして…御堂 可菜実と言います。よろしくお願いします」
可菜実はなな子の両親に挨拶している。

「あらまぁッ!凄い美人!!綺麗な人じゃないのッ!!やったわねッ!巡ちゃんっ」
なな子の母、椿が舞い上がる。

「・・・っっ」
巡哉は椿の言葉とはしゃぎっぷりに照れ、顔を赤くさせながら狼狽える。

「オィッ、巡哉!おめぇ捨てられねぇようにしろよッ」
なな子の父、弘乃丞はニヤニヤしている。

「ちょっと…揶揄わないでくださいよッ」
巡哉は、日頃から頭が上がらない弘乃丞にたじたじになる。

「よかったなァッ!辰島先生よォッ」
悠佑もニヤニヤして言った。

「おま…っ!何でここにいんだよッ」
突然顔を出した悠佑に驚く巡哉。

「何でって、なな子の彼氏だから」
悠佑はしれっとしている。 

「御堂先生、もし学校で何かあったら言って下さい。私、いつでもすっ飛んで行きますんで」
なな子は自信満々に言った。

「ありがとう。なな子ちゃんがいれば安心ねッ」
可菜実が微笑みながら言った。

「あと、、、御堂先生…」
なな子が俯きながら言った。

「・・・?」
可菜実がキョトンとしてなな子を見る。

「巡ちゃんのこと、よろしくお願いします!どうか何があっても捨てないであげてくださいッ」
なな子が可菜実に深々と頭を下げた。

「オィッ!おまえまで変な事言うなよッ!」
巡哉はなな子に抗議した。

可菜実は笑いながら言った。
「大丈夫。私、巡哉さんを心の底から愛してるのでッ」

「・・・・っっ!!」
巡哉は初めてハッキリと聞いた可菜実の愛の言葉に驚き、目を見開きながら可菜実を見つめた。

可菜実は笑顔で巡哉を見つめた。

「ヒューヒューッ!熱いねぇ〜」
なな子の父、弘乃丞と悠佑は二人揃って茶化した。

巡哉と可菜実はお互い顔を赤くしながら照れ笑いする。

「ったく、弘乃丞は子供みたいねぇッ」
母の椿は、はしゃいでる弘乃丞を見て呟いた。

「悠佑とおんなじね」
なな子も呟く。

椿となな子はお互い顔を見合わせ笑った。

しばらくして、巡哉と可菜実は帰って行った。
母の椿と父、弘乃丞は観たい映画があるからと出かけて行った。

家には、なな子と悠佑の二人だけになった。

なな子と悠佑は、なな子の部屋で寛いでいた。

悠佑は寛ぎながらも内心、なな子と二人きりの状況に緊張していた。
悠佑は緊張を紛らわす為、あちこちキョロキョロ見回した。
すると、本棚になな子の小学校と中学校の卒業アルバムがあった。

悠佑は思わずアルバムを手に取り開いた。
「なぁ、これ見ていい?」
一応なな子に確認する。

「もう見てんじゃん」
なな子は漫画本を見ながら応える。

悠佑は、なな子が小学校の時のアルバムから見ていた。
どのクラスか聞かなくても一際目立つ顔立ちのなな子を見つけるのは簡単だった。

「かわ…いい…」

幼いながらも今と変わらない顔立ちで凛とした表情のなな子が写っていた。

ページの間からは、なな子が転校する前の小学校で涼太と同じクラスの集合写真が挟まっていた。

クールな表情で立つなな子の隣には、顔を赤くしながら写る涼太の姿があった。

涼太がなな子の隣で緊張している様子が伝わってくる。
悠佑はその写真を見ながら微笑ましく思った。

次に悠佑は中学校の卒業アルバムを開く。
小学校の卒業アルバムと同じ表情で少し成長したなな子の姿があった。

「はぁー・・」

悠佑はため息をついた。

「何?」
なな子は漫画本に目を向けたまま呟く。

「この頃になな子と会いたかったなーと思ってよ…」
悠佑は卒業アルバムを見つめながら言う。

「今悠佑がここにいるんだからいいじゃない」
なな子は悠佑を見つめながら諭す。

「そりゃそうだけどッ!ここに一緒に写ってるコイツらに嫉妬するわァ」
悠佑が卒業アルバムに向かって拗ねたように言った。

「はぁー…」
そんな様子の悠佑に、なな子は呆れた表情で漫画本に目を戻す。

悠佑「でもさァ、この中学も小学校も俺の知らねーとこだな」

なな子「うち、結構転々としてたからね。今やっと落ちついたって感じ」

悠佑「だから昔のなな子を知る奴がこの辺ではあまりいねぇのか…」

なな子「そうね」

悠佑「まぁ、いたらいたでなな子の追っかけが多そうだしな…なな子がこっちに引っ越してきて良かったわ…」

なな子「中学校の頃に悠佑と出会ってたら今頃離れ離れだったわね、私達」

「・・・っっ!!やっぱおまえと出会ったの、このタイミングで良かったわ…」
悠佑が驚いたように目を丸くしてなな子を見た。

なな子は目を漫画本から悠佑に移すと優しい表情で微笑んだ。

「・・・・っ」
悠佑はそんななな子の様子にしばらく見惚れていた。


「何?」
しばらくして、漫画本を見ながらなな子はボソッと呟く。

ドキッ…
「え!!いや…っっ、その…」
悠佑はあたふたした。

「私…いろいろが初めてだから…よく分からないんだけど。恋人同士がするようなスキンシップ…みたいなのって…私からするのはちょっと…恥ずかしくない…?」
なな子はそう言うと、頬を少し赤くしながらチラッと悠佑を見た。

「・・・っっ!!」
悠佑は、自身が持つ我慢と理性のバロメーターが振り切れた。

そして以前、巡哉から言われた言葉を思い出す。
"なな子の奴…ああ見えてまともに恋愛したことねぇ純粋な奴だからさ。恋愛はおまえがリードした方が良いかもな"

"俺が…リード…"

「・・・・」

悠佑はなな子の隣へ静かに座った。
そして、悠佑はなな子を見つめた。
なな子も悠佑を見る。

なな子と悠佑はしばらく見つめ合うと、悠佑はゆっくりなな子を抱き寄せた。
なな子は、お互いに緊張している何とも言えない雰囲気に息を呑みながら静かに悠佑の鼓動のリズムを聴いていた。

「なな子…」
悠佑はそう呟くと、なな子にそっと顔を寄せ口づけを交わした。

しばらく甘い口づけを交わしていると、悠佑はそのままなな子をベッドに押し倒した。

「・・・っっ」
なな子はそろりと悠佑の顔に目を向けた。

「言っとくけど、俺も…こういうの初めてだから…」
悠佑は顔を真っ赤にしながらなな子を見つめた。

「え…」
なな子が驚いた表情で悠佑を呆然と見つめていると、悠佑はなな子に顔を寄せ再び唇を重ねた。

なな子の力が抜けていく。
意外とガッチリしている悠佑の身体になな子は包み込まれた。
悠佑の鼓動となな子の鼓動が共鳴している。
なな子はそっと悠佑の背中に手を回した。

そして二人は汗ばむ身体を合わせた。

なな子と悠佑は、とても甘くて優しい時間を過ごした。

この日、二人にとって忘れられない…特別な記念日となった。

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-休み明け

「おはよう」
登校日の朝、なな子はいつものように待ち合わせをしていた悠佑に声をかける。

「よ…よぉ…」
悠佑は顔を赤くしながら挨拶する。

「・・・・っ」
なな子は、恥ずかしそうにしている悠佑を見て、休みの日になな子の部屋で悠佑と過ごした時間を回想し自身も恥ずかしくなった。

なな子は若干顔を赤くしながら言う。
「悠佑、そんな顔しないでくれない?貰い照れしちゃうわ」

「・・・っっ!」
悠佑は驚いたようになな子を見た。

なな子も顔を赤くし照れている様子だった。

ギュッ…
悠佑はなな子の手を握った。

なな子は驚いて悠佑を見る。

悠佑は照れ笑いしていた。

なな子も釣られて笑うと、二人は仲良く手を繋いでいつものように登校した。

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キーンコーンカーン…

「何かうちのクラス…男子の眼鏡率も高くなってない?」
玲花が不思議そうに教室内を見回した。

「本当だ…」
多満子もまじまじと教室内をキョロキョロしている。

「ほんと単純よね、人間って」
なな子が無表情で呟く。

「でも私が好きなのは、眼鏡じゃなくて吾郎だけどねッ!」
玲花はそう言うと、横にいた吾郎と腕を組んだ。

「・・・っっ」
吾郎は眼鏡をクイッ上げながら、顔を赤くする。

「俺も、眼鏡が好きなんじゃなくてたまちゃんが好きー」
涼太は多満子を笑顔で見つめながら言った。

「・・・っっ」
多満子も顔を赤くし照れている。

そんな二組の様子を見たなな子は小さく微笑んだ。

「なな子は?」
悠佑は真面目な顔と口調で言った。

「俺はなな子の全部が好き。おまえは?」
悠佑は真っ直ぐなな子を見つめている。

なな子は優しい眼差しで悠佑を見つめると、静かに呟いた。

「私も」

悠佑は目を大きく見開きなな子を見つめる。

すると、なな子は続けて言う。
「私も悠佑の全部が好きだよ。悠佑の身体も心も頭の中も…全部好き」

なな子はそう言うとニコッと笑った。

悠佑「・・・っっ!!」
・・・カァァァ…
悠佑は顔を紅潮させ、早くも人生で五度目の大きな恋雷が落ちたのであった。
ハイペースで悠佑に落ちるなな子の恋雷である。

悠佑はまたもやしばらく放心状態になりながら、なな子に見惚れ続けた。

"・・・身体も…? "

その場にいた玲花達仲間はしばらく考えた。

"・・・っっ!!"

そして皆何かを察し、一同顔を赤くした。

なな子だけ一人涼しい顔をしていた。

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「ねぇ、そろそろ私も悠佑の家族に一度ご挨拶した方が良いよね?」
ある日、なな子は思いついたように目を丸くしながら悠佑を見た。

「・・・あぁ…まぁ…うん…」
悠佑は目を逸らしながら何やら浮かない反応を示す。

「何?どうかした?」
なな子は不思議に思い悠佑の顔をさらに覗く。

「うん…それが、うち兄弟多くてさ…」
悠佑が浮かない表情で言う。

「良いじゃない。私、一人っ子だから兄弟多いのとか大歓迎だけど」
なな子はキョトンとしながら応える。

「うーん…えっと…その兄弟がさァ、姉貴と兄貴と弟と妹がいるんだけどよ…」
悠佑がチラッとなな子を見ながら言う。

「え!!全部いるのッ?!それ…私からしたらすごく羨ましい状況よ」
なな子は目を見開き悠佑を見つめる。

「…っっ、全部って…」
悠佑はたじろぐ。

「それがどうしたのよ」
なな子は不思議そうに悠佑を見た。

「その…兄弟がさ…なな子の事…」
悠佑は俯いた。

「…ん?私の事??あぁ、怖がっちゃう?」
なな子はキョトンとしながら言う。

悠佑「好きになっちまうッ!絶対ッ!!」

なな子「は?」

悠佑「特に兄貴と弟がッ!!だからあんまりなな子に合わせたくねぇっつーか…」

なな子「あぁ、この前話してたお兄さんと弟さんね。柴犬のあの子達に似てるって言う。別に私は悠佑の家族に好かれるのは嬉しいけど」

悠佑「いやいやいや…俺の兄貴と弟だぜ?犬とは訳が違うんだよッ!!俺ら異常なくらい似てんだよッ!!認めたくねぇけどッ!!俺と兄貴と弟とは好みがいつもドンピシャで、昔から俺らはそれでよくケンカになるんだよ…。何かとすぐ取り合いになるし。小学校の時の初恋の先生だって見事に同じだったし…。だから今回だって…ぜってぇにヤバイって!なな子はただ好かれるってだけじゃねぇよ!恋愛感情持たれるに決まってる。そしたら俺が困るッ!」

なな子「悠佑…きっと好みなんて、成長するに連れてそれぞれ変わってくって…。もう皆子どもじゃないんだし…」

悠佑「俺ら兄弟の成長速度、停まる駅がべらぼうにある各駅停車並みだからな?」

なな子「…っっ。悠佑、前に私が言ったこと忘れた?」

悠佑「え…」

なな子「悠佑を好きだっていう私の気持ちは揺るがない。誰かが襲ってきたら私が倒す。それが例え悠佑の家族だったとしても、容赦しないんだけど」

悠佑「なな子…」

なな子「悠佑と同じ血を引いたお兄さんと弟さんが悠佑と似てたとしても、悠佑は一人しかいないでしょ?私は、今ここにいる誰でもない、あんたの事が好きなの。私のこの気持ちが揺るがなければ、いくらお兄さんや弟さんから恋愛感情を持たれたって、別に何も変わらないでしょ?」

「・・・・っっ」
悠佑は若干目をうるうるさせながら呆然となな子を見つめている。

「まぁ…もし、仮に恋愛感情抱かれてしまったら、お兄さんや弟さんにはちょっと辛い思いさせちゃうかもしれないけど…そうなった時は、私がお兄さんと弟さんの為に、良い原石を発掘してあげるからッ」
なな子は優しい表情のまま拳を自身の胸に当てた。

悠佑「なな子…」
悠佑は愛おしそうになな子を見つめた。

なな子「ちょっとはこれで安心できた?」
なな子はニッコリ笑う。

悠佑はそんななな子に見惚れながら呟いた。

「あぁ…。じゃぁ…今度の日曜、うち来る?」

「うん。行く」
なな子は微笑みながら応えた。

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約束の日曜日、悠佑の自宅近くの公園でなな子は悠佑と待ち合わせをしていた。

悠佑が待っていると、しばらくしてなな子がやって来た。

「…っっ!!」
悠佑は、現れたなな子を見るなりギョッとした。

なな子「おはよう」

悠佑「おまっ…その眼鏡…」

なな子「あぁ、これね。母さんが今日使わないって言うから貸してくれたの。ここに来るまでに変な虫が寄ってこないようにって」

悠佑「あ、なるほどね。それは賢明だわ」

なな子「安心して。ここからは眼鏡外すから」
なな子は眼鏡を外した。

悠佑「別に…今日だけずっと眼鏡付けといてもいいんだけど…」

なな子「嫌よ。これから末永くお付き合いして行く人達なんだから、ちゃんと素顔を見せておかないと」

悠佑はなな子の言葉を聞き、驚いたようになな子を見つめ顔を赤くさせた。

なな子「何?」

悠佑「俺…泣きそう…」

なな子「悠佑、そんなんじゃこの先…何トン涙があったって足りないわよ」

悠佑「…そのうち俺、脱水症状起こすかもしれねぇ…」

なな子「…っっ」

なな子と悠佑はそんな会話をしながら香月邸へと到着した。

なな子は若干、緊張した面持ちを見せる。
そんななな子を見た悠佑は、なな子でも緊張することがあるんだと心弾ませた。

--

「えー…っと、俺の彼女…」
悠佑が照れながら香月家の人々へなな子を紹介する。

「鷹鳥なな子です。よろしくお願いします」
なな子はペコリと頭を下げる。

「・・・!!」
香月家の人々は、なな子を見るなりあまりの美人すぎる顔立ちに驚き固まった。

「悠佑…おまえ…」
すると、悠佑の兄とおぼしき人が静かに口を開いた。

悠佑「・・っっ」
なな子「?」

「一体どうやったらこんな美人と出会って付き合えんだよッ!!」
悠佑の兄は興奮しながら悠佑に詰め寄った。

「いやーまぁー、運命?だからどうしようもねぇっつーか」
悠佑がドヤ顔をしてみせる。

「…っっ」
悠佑の兄はそんな悠佑に苛立ちを見せる。

その間、他の家族達は未だなな子に見惚れ続けている。
その様子を察したなな子はニコッと笑って見せた。
すると悠佑の弟はなな子の笑顔を見るなり、気絶した。

「あッ!ちょ…っ、え、大丈夫ー!?」

なな子と香月家の人々が初めて顔を合わせた時間、しばらく大騒ぎであった…。

しばらくして、香月家の人々が落ち着きを取り戻すと、悠佑は改めて家族をなな子に紹介し始めた。

「えっと…うちのおかんとオヤジ…」

「どうも、悠佑がいつもお世話になってますッ。母の 喜江(きえ)です。よろしくねッ」
悠佑の母、喜江は満遍の笑顔で挨拶した。

「こちらこそ…お世話になってます。よろしくお願いします」
なな子は照れながらペコリと頭を下げる。

「いやー、なな子ちゃんッ!会えて嬉しいよッ!俺が悠佑の父、 進之介(しんのすけ)だッ!よろしくッ」
フレンドリーさが悠佑によく似ている父の進之介である。

「あ、どうも。よろしくお願いします」
なな子は恐縮しながら頭を下げた。

悠佑は続けて、姉と兄を紹介した。

「そんでこっちが姉貴…」

「どうも、はじめましてぇーッ!姉の 理沙(りさ)ですッ!この前、二十歳になったばっかの大人ほやほやだよッ!りさ姉って呼んでね、なな子ちゃんッ」
悠佑の女バージョンと言っても良いぐらいのイケイケな姉さんであった。現在大学2年生であり、悠佑に似て大学ではモテまくっているイケイケ女子大生である。

「あ…はい。ありがとうございます。よろしくお願いします…」
なな子は照れながら挨拶をした。

「で、こっちが兄貴…」
悠佑がつんけんした態度で兄を紹介する。

「どうも。コイツに飽きたら俺はいつでもウェルカムだからなァ。俺の事は 理久斗(りくと)って呼んでくれていいぜ」
悠佑のDNAが確実に組み込まれているヤンキーのような風貌のチャラそうな兄である。現在は悠佑とは別の高校に通う3年生であり、悠佑と同じように高校イチのイケメンモテ男として君臨している。

「ぜってぇに名前なんて呼ばせねぇ…」
悠佑は兄である理久斗に敵意を見せる。
理久斗も悠佑に視線をバチバチさせた。

「…っっ。よろしくお願いします…」
なな子はたじろぎながら挨拶した。

「…っっ。んで、…コイツが弟の 爽汰(そうた)…」
悠佑は兄の視線を振り払いながら紹介を続けた。

「・・・っっ」
思春期真っ只中の中学2年生である弟の爽汰は、なな子を見ながら顔を赤らめ静かに会釈した。
爽汰も香月家のイケメン遺伝子が組み込まれている為、学校イチのイケメンモテ男として中学では有名になっている。しかしながら、兄達ほどヤンキーなチャラさはないようだ。

「よろしく」
なな子は優しい表情で爽汰に挨拶した。

「…っっ!!」
爽汰は呆然としながらなな子に見惚れていた。
すかさず悠佑は弟、爽汰の視界を遮る。
爽汰はムスッとした表情で悠佑を睨んだ。
悠佑は、兄であり且つなな子の彼氏である存在感を出しドヤ顔をして見せる。

爽汰「チッ…」
悠佑「テメェ…今舌打ちしたな…」
悠佑はワナワナと苛立たせた。

「…ったく。えっと、コイツが妹…」
悠佑はやれやれとばかりに最後に妹を紹介した。

「… 彩伽(あやか)です。小学校6年です…。よ…よろしく…お願いします…」
一番下の妹はおとなしく可愛らしいお嬢さんであった。一番下の妹の彩伽までもが、小学校では男の子から絶大な人気を得ている。
そんな彩伽は人見知りをしているのか、なな子の前で緊張しているようだった。

「よろしく、彩伽ちゃん」
なな子はニッコリ笑った。

そんななな子にその場にいた家族全員、呆然となな子に見惚れていた。

悠佑も一緒になな子に見惚れている。

「あの…そのー…、なな子お姉ちゃんって…呼んでも…い、良いですか…?」
一番下の妹、彩伽が照れながらなな子に言った。

「うん、もちろん」
なな子は爽やかな笑顔で応えた。
彩伽は嬉しそうに喜んでいた。

「お、俺もッ!俺は…なな子さんって…呼ぶ…」
弟の爽汰も恥ずかしそうに顔を逸らしながら慌てて言った。

「オィッ!姉さんを付けろッ!」
悠佑は爽汰をギロッと睨む。

爽汰はツーンとした態度を取る。

なな子はそんな爽汰を見て、微笑みながら言った。

「うん、よろしくね」

爽汰も顔を赤くしながら嬉しそうにしていた。

「・・・・」
悠佑は不服そうにジロリと爽汰を見つめていた。

「じゃあ私は、ななちゃんって呼ぶわねッ!」
一番上の姉である理沙が陽気に言った。

「はい。よろしくお願いします、り… 理沙姉…」
なな子は照れながら言った。

理沙「ヤダッ、可愛い〜っっ!美人が恥じらう顔はだいぶ胸キュンよッ!」

理沙はそう言いながらなな子に抱きついた。

「ちょッ…姉貴!離れろッ!」
悠佑は慌てて姉の理沙をなな子から剥がす。

「良いじゃないのーッ!女同士なんだからァッ」
理沙は口を尖らせる。

なな子には女性ファンも多かった為、相手が女性であろうと危機感を怠らない悠佑であった。

「じゃあ俺はなな子って呼ばせてもらうぜ」
香月兄弟のラスボス、兄の理久斗が涼し気に言い放つ。

「ダメッ」
すかさず悠佑が応戦する。

理久斗「おめぇの許可なんて必要ねぇッ」
悠佑「なな子!兄貴に名前呼ばれても絶対振り向くなよッ!」
なな子「…っっ」
理久斗「テメェ…ふざけんなよッ」

香月家の長男と次男、時々三男の戦いはしばらく続いた…。

「なな子ちゃんって…あの方に似てない?」
突然、悠佑の母喜江がなな子をまじまじと見ながら、悠佑の父、進之介に呟く。

進之介「確かに…どっかで見たことある顔だな…」

なな子「…?」

喜江「 鷹椿(オウチュン) ヨガ教室の椿先生に似てる…」

進之介「…っ!!そうだッ!つ…つ、椿さんだッ!!」

なな子「あ…それ、うちの母です」

喜江「えぇ!!」
進之介「えっっ!?」

悠佑の両親は、なな子の母である椿のヨガ教室に通う生徒であった。
二人は共に、なな子の母、椿のファンでもある。

「おぃおぃッ!!まさか…あの椿さんと親戚になれるだなんてッ!!」
悠佑の父、進之介は早くも将来を想像し舞い上がる。

悠佑「…っっ!!オヤジ…」
悠佑は顔を赤くさせ狼狽えていた。

「今日は赤飯を炊きましょッ!なな子ちゃんも食べてってーッ!」
母喜江も舞い上がる。

悠佑「・・・っっ」

「フフ…」
なな子は香月家の人々を眺めながら楽しくなり笑った。

そんななな子を見た悠佑や悠佑の兄弟達はホッコリ笑顔になった。
 
--

大人数で香月家の食卓を囲っていると、突然母の喜江がなな子に素朴な疑問を投げかけた。

「それにしても、なな子ちゃん。どうして…うちの悠佑を選んでくれたの?まぁ、悠佑に限らずだけど…うちの子達、みんなチャラついてて不安だと思うんだけどぉ…」

「ちょっ…母さん!チャラついてるなんて、人聞きの悪いッ」
長女理沙を筆頭に、香月家の兄弟達が不満を言う。

するとなな子は、真面目な表情で真っ直ぐ悠佑の母、喜江を見ながら言った。

「悠佑は、誠実で優しくて…すごく勇敢なんですよ。それがすごく魅力的で、私には勿体ないくらいです。そんな彼から選んでもらえて…私はとても幸せです。だから不安なんて全くありません」

なな子はそう言うと穏やかな笑顔を浮かべた。

悠佑「うぐっ…うぅ…っっ」

なな子の言葉を聞き、悠佑は俯きながら涙を堪えきれずにいた。

稀に見ない悠佑の姿に、香月家の人々は驚いた表情で悠佑を見た。
そして、同時になな子の人柄を理解した。

「それと…お、お母…さん…。皆さんご兄弟は、チャラついてるだけじゃないと思いますよ」
なな子は恐縮しながらゆっくり口を開いた。

喜江「なな子ちゃん…」

香月家の人々は目を丸くしてなな子を見つめた。

「今日、はじめて会ったばかりですけど…分かります。悠佑と同じ…皆、思いやりある魅力的な人達ばかりじゃないですか。皆さん優しいし楽しいですし。だから…自信持ってください。香月家の皆さんは、素敵です。不安になる事なんてありませんよ」
なな子は落ち着きのある大人びた口調で悠佑の母喜江を諭した。

そんななな子を、悠佑や兄の理久斗、そして弟の爽汰は心を鷲掴みにされているかのように呆然と見惚れていた。

母の喜江と悠佑の姉である理沙は笑顔で涙を流していた。

一番下の妹、彩伽は憧れの眼差しでなな子を見つめていた。

進之介「椿さん…」

なな子「・・・?」

父の進之介は、母、椿の面影を見ていた。

なな子「それにー・・・」

香月家一同「それに…?」

「香月家の皆さんの安全がもし脅かされるようなことがあったら…私、全力でお守りしますんで、ご安心ください」
なな子は凛々しい眼差しで自身の拳を胸に当てた。

香月家一同「え…?」
皆、キョトンとした顔でなな子を見ている。

悠佑「あぁ…なな子はケンカが強えぇんだわ。どんな相手だろうが何人いようが、簡単に倒しちまうんだよ」

悠佑はあっけらかんとした表情でサラリと言う。

理久斗「何それ…」

香月家の人々は、なな子を驚きの表情で見つめた。

悠佑「俺らが通ってる高校周辺が平和になったのもなな子のおかげ」

理久斗「マジかよ…」

「俺もなな子に救われたし…あの時はホントにグッと来たなァ…」
悠佑はデレッとした表情をしながら思い出すように言った。

理久斗「・・だいぶ…ギャップ萌えなんだけど…俺…」
悠佑の兄理久斗は、なな子に見惚れている。

悠佑「…っっ!!」
"兄貴の奴…どこまで俺に似てんだよッ!腹立つわッ"
悠佑は兄である理久斗を見ながら苛立ちを募らせた。

爽汰「・・・・」
悠佑「・・・・」
なな子を見る爽汰の目も、明らかにハートになっていた。

"爽汰…おまえもか…"
悠佑は自分と同じDNAがこんなにも配分されていることに頭を抱えた。
ただ、一つだけ切実に思うことがあった。

"俺に双子がいなくて良かったわ…"

--

「なな子さんが、悠佑を変えたのね…」
悠佑の母喜江がポツリと呟いた。

なな子「え…」

喜江「悠佑、この前は人が変わったように勉強し出したかと思ったら…持って帰って来たテストの点数見て驚いたのよッ!香月家であんな点数、見た事なかったから…」

理沙「そうそう!悠佑、宇宙人に一回連れ去られたのかと思った!」

悠佑「は?」

なな子「…(笑)…悠佑が頑張ったんですよ…」

悠佑「でもほんと、なな子のおかげ。なな子の教え方がすっげぇ分かりやすかったから…」

なな子「私は何もしてないよ。悠佑自身の力で変わったの。私はそのきっかけを作っただけだよ。だからすごいのは悠佑」
なな子は微笑みながら悠佑を見た。

悠佑「なな子…」
悠佑はなな子に愛おしい眼差しを送った。
香月家の人々も、なな子に見惚れる。

しばらくすると、悠佑の弟、爽汰が口を開いた。
「…じゃぁ、俺も今度からなな子さんに勉強教えてもらおうかな…」

「ダメ。おまえは弘乃丞さんの塾にでも通わせてもらえッ!紹介してやっからッ!あと、姉さんって付けろッ!」
すかさず悠佑が爽汰の申し出を跳ね返す。

爽汰「チッ…何でダメなんだよッ!」

悠佑「テメェ…また舌打ちしやがったな…」

理沙「え… ちょっと待って!弘乃丞さんの塾を紹介できるって…悠佑、あの塾に知り合いでもいるの?」

悠佑「知り合いがいるも何も、弘乃丞さんはなな子の父ちゃんだからなァ」

理沙「え…。えぇぇぇえーっっ!!」

悠佑「…っっ」
なな子「・・・?」

「私… 弘乃丞先生って名前しか知らなかったんだけど…あの駅前にある塾の前をいつも通っててよく見かけるんだけどね…。私…すっごいファンなのッ!弘乃丞先生ッ!!すっごくダンディな男前で…超カッコいいのよッ!…何で私、あの塾通ってなかったんだろうって後悔したぐらいよ!」
理沙がなな子の父弘乃丞について、熱く語っている。

「・・・っっ」
悠佑となな子は、そんな理沙に苦笑いしながらたじろいだ。

理沙「え…、ちょっと待って…じゃあ弘乃丞さんと親戚になれるってこと…?キャーっっ!!ウソでしょウソでしょー!?夢みたいなんだけどー!母さんッ、あとで赤飯もう一杯食べていい?」

悠佑の父、進之介に似た理沙は、先程どこかで見た光景のように舞い上がる。

悠佑「…っっ。…姉貴…」
なな子「・・・(笑)」

--

「今日は、ごちそうさまでした…。ありがとうございました…」
なな子は深々と頭を下げる。

「良いのよッ!またいつでも来てねッ」
母喜江が明るく笑顔で言う。

姉の理沙と父進之介も笑顔で見送る。

「絶対…また来てよ…」
弟の爽汰は顔を赤くさせながら、なな子に念を押すように言った。

「うん…ありがとう。またおじゃまするね」
なな子は笑顔で応える。

爽汰は嬉しそうな笑顔を見せる。

悠佑はそんななな子と弟の爽汰のやり取りをやきもきしながら見ている。

「なな子、連絡先教えてくれ。兄として俺も連絡が取れた方が良いと思うんだわ」
兄、理久斗がなな子に詰め寄る。

「ぜってぇ、ダメッ!!断固阻止するわ」
悠佑が必死に兄理久斗を追いやる。

理久斗「何でだよッ!連絡先ぐれぇでガタガタ言うんじゃねぇッ」

悠佑「無理無理無理無理ッ」

彩伽「なな子お姉ちゃん、今度いつ来る?明日?」
一番下の妹の彩伽が、一番積極的であった。

なな子「近いうちにまたおじゃまするね」
なな子は笑顔で応えた。

「近いうちって…」
悠佑は狼狽えた。

理久斗「悠佑ッ!おめぇ、後で事情聴取だからなァ…忘れんなよッ」

悠佑「いや、マジ勘弁して…」


「おじゃましました」

なな子と悠佑は香月家を後にした。

「今日は…あんな家族に付き合ってくれて、ありがとな…」
悠佑は照れながら言った。

「こちらこそ。私の思ってたとおり、香月家は魅力的だったわ」
なな子は清々しい様子で言った。

「・・・今日…なな子がうちのおかんに言ってたやつ…あれ、すっげぇ嬉しかった…」
悠佑は顔を赤くしながらなな子に言った。

それを聞いたなな子は悠佑を優しい眼差しで見つめ微笑んだ。

「俺…ほんと頑張って良かったわ…。なな子を諦めなくて、ほんと良かった」
悠佑は立ち止まり真っ直ぐなな子を見つめながら言った。

なな子は驚いたように悠佑を見つめると、微笑みながら言った。

「それは私も同じ。悠佑を諦めなくて本当に良かったって思ってる」

すると、悠佑はなな子を抱き寄せた。

悠佑「なな子、これからもずっと…一生俺のそばにいてくれよな…」

なな子「うん…もちろん。悠佑もね」

悠佑となな子はお互い笑顔で見つめ合うと、そっと口づけを交わした。

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その後、悠佑が自宅へ戻ると早速長男理久斗の取り調べが待っていた。

理久斗「悠佑ッ!おめぇ…いつなな子の存在に気づいたッ。いつから黙ってやがったッ」

悠佑「そんなの兄貴にいちいち言うかよッ!だいたい、なな子って呼ぶんじゃねぇッ」

理久斗「おめぇがなな子と付き合っちまう前に、俺に言わなきゃダメだろッ!何でなな子の存在をもっと早く俺に教えなかったッ」

爽汰「あ、それ…俺も教えて欲しかった。悠佑兄が付き合う前に」

悠佑「…余計言わねぇだろッ」

理久斗「何でだよッ」
爽汰「チッ…」

悠佑「おまッ…また舌打ちしたなッ!」

その日、香月家の男兄弟の言い争いは深夜まで続いた…。

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-翌日

悠佑の兄、理久斗は学校にて…

理久斗「ハァー…」
理久斗は頬杖をつきながら深いため息をついていた。

理久斗の友人である佐藤は、理久斗の珍しい様子を不思議そうに見ながら言った。
「何それ…ため息なんかついちゃって。何かあったのか?」

理久斗「昨日…悠佑の奴がさ…。連れてきたんだよ…彼女…」

佐藤「え…おまえの弟が?」

理久斗「その女…めっちゃ俺のドストライクだったんだよッ!!!」

佐藤「…っっ、おまえら兄弟、ホントに仲良いな」

理久斗「仲良かねぇよッ!…ったく、アイツ…何で付き合っちまう前に俺に紹介してくんなかったんだよッ!!」

佐藤「え…。俺でも絶対紹介しない…」

理久斗「何でだよッ」

一方その頃、悠佑の弟である爽汰も全く同じ会話を学校でしていた。

爽汰「はぁー…」

山田(友人)「どうしたー?」

爽汰「昨日…悠佑兄が彼女連れてきたんだけどさ…」

山田「へぇ!」

爽汰「完全に俺のタイプ…」

山田「え…」

爽汰「もぉぉーッ!!何で悠佑兄なんだよー!!悠佑兄も付き合っちゃう前に、俺をなな子さんに合わせてくれれば良かったのにッ」

山田「いや、それは兄ちゃんが正しい…」

爽汰「何でだよッ!」

山田「しかし、あれだね。君ら兄弟っていつも趣味が合ってホント仲良いよな…」

爽汰「どこがッ!」

どこまでも似ている香月ブラザーズであった…。