青に染まる
 そう、それは今日の数学の授業でのこと。

 幸葵(こうき)くんの隣の席の北見(きたみ)さんと言ったか──が数学の問題を教えてほしいと言ったとき、幸葵くんは素っ気なく「自分で考えてください」と突っぱねた。少しだが、人と距離を置いているように見えたのだ。

 自己紹介もあんなにこざっぱりとしていたから、あまり人と関わることに興味がないのかなとも思う。

 今日の数学の授業のみならず、他にも勉強を教えてほしいといった類の誘いは断っていたはず──。

「さーがーらー!」
「うにっ」

 頬をぷにっとつつかれる。そこにはどこか膨れた顔をした幸葵くんがいた。普段は鉄面皮だが、最近表情がわかりやすくなってきた。

「どうしたんです? 心ここに在らずといった感じで」
「あ、いやなんでもな」
「なんでもないなら教科書返してもらいますね」
「ちょ、タンマタンマ」

 取り上げられそうになった教科書を引っ張る。幸葵くんはあまり力を入れていなかったのか、すぐに教科書は僕の前に落ちてきた。


 気のせいかな。
 僕とはこうして普通の距離感を保っているし、他人を避けているだなんて早とちりだったかなと思った。
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