青に染まる
「あ、やっぱ兄貴帰ってきたんだ!また妄想?」
「だから妄想っていうのやめて。実現させるんだからただの想像では済ませないさ」

 それよりただいまでしょ、と哀音に微笑みかける。哀音は苦笑いを潜ませながら、小さくただいまと言った。

「そういえばさ、哀音は将来とかどう考えてるの?」
「おれ?うーん」

 中学生に答えを求めるのは難しいかと思ったが、哀音は悩む表情から一転。名案を思いついたように手を打つ。

「兄貴と一緒に花屋やる!」
「ええ?」

 不満はないが。

「それ、哀音がやりたいこと?」
「そりゃもちろん。おれがやりたいのは兄貴の傍にずっといることだもん」

 ずっと、ね。夕暮れの方に目をやりながら、苦笑混じりにこぼす。

「難しいと思うなぁ」
「やる気になりゃどうとでもなる。おれは兄貴から離れないからな」

 そう言ってくれる弟は可愛いけれど、やっぱり難しいと思う。

 僕も小学生の頃ずっと一緒にいようと誓った子たちがいたけれど、高校進学に当たって見事にばらけてしまった。それに、僕らは一度転校を経験している。ずっと一緒というのが難しいのを、身をもって知っているのだ。そう諭しても、哀音は頑として譲らない。

「おれが兄貴を守るんだ!」
「へぇ?」
「兄貴に変な虫がくっつかないように、なんか寄ってきたらばしんと叩き落としてやる!」
「物騒だなぁ」

 知的な印象の哀音とはかけ離れた幼子のような表現を微笑ましく思う。彼は恥ずかしかったのか、わやわやと言い訳を並べ立てるが顔が赤い。

「綺麗な花も虫がいないと咲かないんだよ」

 哀音が唸って黙ったところで、中に入ろうと促した。

「ってかさぁ、今日もなんか匂いつけてきてんじゃん」

 彼の部屋。二人で机を付き合わせていると、哀音がふと不満そうにこぼした。
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