窓の中のラブストーリー
第5章. エピローグ
少女の名前は『友理奈』。

7年前の2月の雪の降る夜、この病院で産まれました。

母親『友理』の命と引き換えに。


大病の母親の中で育ち、治療を控えたとは言え、何らかの影響もあったのかも知れません。

少女は産まれつき心臓に欠陥があり、さらに恐らくは胎内にいる頃に、悪魔の種を潜ませてしまっていたのでしょう。


父親『浩樹』は、最愛の彼女を亡くしたショックに加えて、生まれた子供が心臓の病気で、いつまで生きられるか分からないことを知らされました。

それから彼の精神は完全に崩壊してしまったのでございます。

幸い近くにいた浩樹の兄夫婦が、友理奈を引き取り、親代わりをしていたのでございます。

浩樹は、病院から一生出ることはありませんでした。

老人の側にいたあの椅子。
彼の側にはいつも友理が居ました。

もちろん幻覚ではありましたが、私のもとで70歳の生涯を閉じるまで、彼は独りでは無かったのでございます。


彼は最後の最後にやっと正気に戻り、私に、

『長い長い間、ありがとう』

と礼を言って逝かれました。


彼が見つめていた私の左下のガラスには、


細く彼女の指文字で、

『ゆり』

その隣には少女の指文字で、

『ゆりな』


と書いてありました。


彼は、妻と娘にみとられながら、命を終えたのでございます。


彼がこの部屋で見せた3度目の涙は、大変あたたかな、幸せの涙でございました。


今はもう、二人の指文字は見当たりません。

彼とすれ違った時、私の想い出が少し軽くなった気がしたのは、彼が『ゆり』と『ゆりな』を連れて天国へ逝ったのだと、思うのでございます。
< 17 / 18 >

この作品をシェア

pagetop