sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜

7.エピローグ

友哉さんとふたりで、パリに渡る両親を見送った。


「私よりお母さんが先に行くとは思わなかったな〜」

「ほんとだよな。でもお母さん、すごい幸せそうだった」


車椅子で通りづらい箇所は、父がお姫様抱っこで母を抱え、その度に母は顔を赤くしていた。


「私のパスポート、いったいいつになったら出番が来るのかな・・・」

「すぐ来るよ」

「え? 本当?」

「店のオープン前にパリに行こうぜ。オープンしたら、しばらくゆっくりできないから、あちこち連れて行く」

「嬉しい! すごく楽しみ!」

「じゃあ頑張って、オープンの準備しような」


私たちのお店は、もう既に外観も内装も出来上がっていて、いつでもオープンできる状態になっていた。

友哉さんがケーキを作り、私が焼き菓子を作る。
厳選した材料で丁寧に作る代わりに、種類を増やしすぎないことで、コストも抑えようと考えていた。


「あとは名前なんだよなー」

「うーーーん、浮かばないよねぇ」


お店の名前がなかなか決まらない。
候補があって困っているわけではなく、コレというものが浮かばないのだ。


「ま、そのうち思い付くか。二葉、コーヒーでも飲むか?」

「うん」


コーヒーを飲みながら、ふと思い出したことがあった。


「私、気付いてたよ」

「ん? 何に?」

「2年前・・・ウエディングケーキを作ってた友哉さんに」

「え?」

「何度か見掛けて。いつも横顔が真剣で、声を掛けるような雰囲気じゃなくて。誰なんだろう
なって思ってた」


2年経って再会した時、すぐには分からなかった。
あの時の人だとは。

普段の友哉さんとは、漂う緊張感がまったく違ったから。


「で、いつ気付いた? あの時の俺だって」

「チーズケーキの時かな」

「服か?」

「ううん、作ってる時の横顔」


私と話をしながらだったけれど、作っている時の真剣な横顔が、2年前のそれと重なった。


「私のそばにいる友哉さんは、あのパティシエだったんだ・・・って」

「嬉しかった?」

「うん。憧れの人だったから」

「え!?」

「私、毎日こっそり冷蔵庫にウエディングケーキ見に行ってた」

「ほんとかよ。知らなかった」


出来上がる過程を毎日見ていて、その仕上がりに、いつか一緒に仕事をしてみたいと憧れたのだ。
その夢も、叶うことになった。


「あ!!」


友哉さんが突然声を上げた。


「なぁ二葉、店の名前なんだけどさ」

「うん」

「俺、ずっと英語がいいと思ってて」

「そう、フランス語って響きがオシャレなんだけど、馴染みにくいところがあるよね」

「『 little sweets 』ってどう?」

little sweets HOSHIZAKI
リトルスイーツ星崎

「どうして little を使うの?」


それは・・・と友哉さんが口ごもる。


「二葉が、小さくて可愛い・・・からだよ」


友哉さん・・・。


「店の規模も大きくしないし、提供する商品も厳選する。いろんな意味で、小さなお菓子屋さんだから」

「そうだね。本当の理由は、ふたりの秘密だね」

「絶対に言うなよ!」

「はーい」


私のダンナ様も、思いっきり『sweet』な人だから・・・♡
私たちのお店に、ぴったりだと思った。


「ねぇ、友哉さん」

「何だ?」

「キスしてほしい時は『愛してる』って言うんだよね?」

「え? あー、うん」



「友哉さん、愛してる」



とびっきりの優しい笑顔が、私の唇に近付いて来た。




<おわり>

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