意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!




・・・



(……それにしても)


連絡先、知ってたんだ。
なのに、どうしてそのままにしてたんだろう。
お母さんに頼まれて、仕方なく聞いておいた――そう思おうとしたけど、上手くいかない。

自惚れだって笑いたくなるけど、笑えない。
再会した陽太くんは、大人になった私を見て好きだって言った。
私に、また好かれたいんだって。

リップサービス?
だったとしても、何の為に?
仕返し? 何の?
私が彼を許せないみたいに、陽太くんも私を何らかの理由で恨んでるんじゃ――……。


(……もー、やめやめ!! )


それだけ好かれているんだとしても、逆に憎まれているんだとしても。
どっちにしたって、陽太くんの本心なんか知りようがない――私が、これ以上彼に近づかなければ。

どうだっていいじゃない。
たまたま、再会してしまっただけ。
私のこれからには、必要のないことだ。


(あーー!! 池田さん、今日も素敵だったな)


まだ冬空の帰り道、思考をどうにか転換する。
そうよ、そっちの方がよっぽど有意義で建設的。……まあ、どうにもならないけど。
仕事帰り、疲れた頭と体を過去のトラウマに縛られるより、いつもクールな池田さんとエレベーターで会って「お疲れさまです」ってふっと笑ってくれたことを何万回脳内再生した方がずっと心身にいい。


(ジェントルなんだよね、池田さん。さっとドア持っててくれたり。エレベーターで、偉そうに上座に行こうとするおじさんの中、どうぞって言われたら堪らん……! そして、大人の色気……! )


うちの会社での会議、暖房が効きすぎて暑かったのか、ふっと息を吐きながらネクタイ緩ませちゃったりして。
一人だと思ってたところに、私が乗り合わせて、慌てて――慌てないようにして、またきっちりタイを絞めるとことか見ようものなら。


(かーわーいい!! )


今日も癒しと胸キュンをご馳走さまです。
心の中で合掌して、大分軽くなった足で帰宅を急――……。

――いだ、時。

ほんのさっきまであった、明るすぎる街灯や人のざわめきが、さあっと消え。
近くもなく、遠すぎることもない、これ以上ないほど不安を煽る距離を保ったまま、後方で影が揺れた。


(……きのせい)


そう思い切れない、その可能性をゼロにもしてくれない、どっちつかずが一番怖い。


「……っ」


駆け出した、けど。
それ、合ってる? 本当にそれでいい?
だって、ほら。私、家に帰るところなんだよ。

――そのまま逃げて、本当にへいき……?



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